8日、宮崎県・日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度6弱を観測した。各地に被害が出る中で、気象庁は初めて南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を発表し日々の備え、避難経路の再確認を呼びかけた。2011年に起きた東日本大震災を教訓に2019年から運用が始まった南海トラフ地震臨時情報だが、今回初めて出たことで改めて地震対策が考えられた一方で、対象地域には観光地も含まれており、宿泊のキャンセルなどが続出する事態を招いた。政府、気象庁からは備えの再確認さえできれば、日々と同じ経済活動をしてもよいというコメントもあった中、なぜここまで自粛ムードが高まったのか。『ABEMA Prime』では当事者、専門家に話を聞いた。
■南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」に戦々恐々
まず、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」がなぜ出たのかを再確認する。地震防災と地震学が専門でJR東海での勤務経験もある関西大・社会安全学部の林能成教授は「2019年に決まったルールをそのまま適用した。最初に大きな地震が起きて、2時間調査をして、評価検討会の会長と課長が記者会見をして、1週間経ったら解除するというルールに従ってやっているだけだ。ただ、2019年からの5年間、周知が不十分だったから『巨大地震注意』と急に言われればびっくりする」とした。さらに「この情報が導入された一番のきっかけは2011年の東日本大震災だ。東日本大震災が3月11日にあって、その2日前の3月9日に周辺の震源域で、マグニチュード7クラスの地震があった。2日後にあの地震があったのに、何もしなかったのはということを反省している。たとえこれだけ低い確率であっても、1発目に当たりくじを引いてしまう可能性もあるし、999回引かない可能性もある。あの時1発目に当たったからこの情報を導入した」と述べた。南海トラフ地震は、林氏が内閣府のガイドラインをもとに算出したものであれば平時の発生確率が0.1%、巨大地震注意であれば0.4%、巨大地震警戒なら6.8%。平時から注意で4倍の差があるが、それでもこのくらいの確率だ。
■聞き慣れないワードに「パニックになった」「恐怖心を煽られた」
政府、気象庁が注意を呼びかけると同時に、日常の経済活動については支障がないともコメントしていたが、聞き慣れないワードに多くの人々が強烈な不安にも襲われた。静岡県出身で歌手・モデルの當間ローズは「僕の実家は湖の目の前で、南海トラフが起きたらもう何かしらの影響が出ると言われている地域。この注意報が出た時に『本当に来る』と思ったようで、もうすごいパニック状態で親からも連絡が来た。『いつ来るの?どうしたらいいの?』と。調べてみたら、来る可能性があるみたいだから一応、備えだけはしておいてと伝えたが、自治体の対策もなくて、誰に何をどう聞けばいいのかみんなわからずパニックだった」と地震直後の様子を振り返った。
またコラムニストの河崎環氏も、大きな不安に襲われた一人だ。「私からすると『巨大地震』という4文字のインパクトがすごくて、恐怖心を煽られた。ものすごく恐ろしいことがこれから起こるんだという気持ちになったのは仕方ない。『巨大地震警戒』『巨大地震注意』という言葉を使わずに、政府や気象庁がうまくコミュニケーションできたかといえば、それもわからない。初期はこういうことを何度も繰り返しながら国民が慣れていくプロセスなのでは」と、理解も示した。
■海沿い観光地はキャンセル続出の事態に
一部地域ではけが人も発生したが、経済的に大きな打撃を受けたのが観光業などを営む人たちだ。和歌山県では10日に予定されていた南紀白浜花火フェスタが中止になったのをはじめ、各地の海水浴場などが臨時休業、もしくは閉鎖に。鉄道でも特急電車の運行取りやめが相次いだ。またJRでも新幹線で一部の地域は徐行運転が続いている。和歌山県串本町でダイビングショップ「ARK Diving Shop」を経営する川田圭太さんのところにも、キャンセルの連絡が続出。例年ならお盆期間中は100から200件の予約が入るところ、地震翌日からキャンセルが相次ぎ、現在は60件ほどしか予約が入っていない。
川田さんは「お盆は毎年最も忙しい時期の一つで、客も予約をお断りするぐらい来るが、今年に関してはもう全然、暇な状態。自衛のためにご自身で判断されてキャンセルする人もいれば、特急が出ていなくて物理的に行けなくなった人もいる。町の様子は特に変わってもいないし、海についてはどちらかと言えば、すごく穏やかな状況が続いていて、ダイビングするには本来であれば適している」と、現状を語った。
キャンセルされる立場からすればつらいが、ただキャンセルする側の気持ちもよくわかる。「売り上げの数字だけ見れば『もう、なんだよ』と思うこともあるけれど、心情としては理解できる。自分たちを守らないといけない中で、情報不足もあったと思う。正しい判断ができている・できていないに関わらず、情報をそのまま受け取って判断してしまう部分もある中、地震が起こるところにわざわざ行く必要がないと言われればそうなので、そこをどうこう責めることはできない」と胸中を明かした。また「このご時世、何もしないまま何かあったら叩かれるので、行政の判断も理解はできる。ただそこに全員が納得できる基準がない。結局、それぞれの人が自衛した結果、ツケがこちらに回ってきた気がする」とも述べた。
■注意喚起と過剰な自粛を招く言葉のジレンマも
「巨大地震注意」という強く感じるワードながら、実際にはそこまで明確な指示が出なかったと感じられる人も多い中、あえて自己判断を促すようにしているというのが林氏の説明だ。「昔の地震予知の時代だと、全部国が決めて国が指導していたが、これだけ低い確率なので各自がリスクを考えて自分で行動してくださいというのが、この仕組みの大きな違い。行政が画一的な基準を決めると、その基準に従ってみんなが何も考えなくなり、どんどん過激に何もしない方向に進む。それはコロナ禍でも十分に経験したこと。『自分で考えてください』というのが最初のコンテクストとしてあった」と、過剰な自粛を招きたくない意図はあったという。
ただし、注意喚起をする目的がある限り、まるで伝わらないのでは、それもまた意味がない。「東日本大震災がスタートだから、大きく伝えれば伝えるほどいいという葛藤もあると思う。1人1人が国や役所に任せるのではなくて、この情報の真意を理解して、行動するようになるしかない。地震が起きなければ、こんなことに興味を持つ人もいないが、実態に合うような言葉を選ぶと無視していい情報のようにもなってしまう。確率が0.1%や0.4%であったとしても、ものすごく大きな地震が起きる可能性はある。『巨大地震注意』というのは非常に扱いが難しい。地震発生の確率が時間とともに下がっているが、1週間経ったら絶対に起きないなんて誰も言っていない。解除したら起きたみたいなことも起きるかもしれない。そういうものも含めて、地震なのだと思う」と理解を求めていた。
(『ABEMA Prime』より)
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