大阪・ミナミの戎橋で先月、道路使用許可を得ずにチェロを演奏したとして、27歳の自称音楽家が逮捕された。
先月からライブはほぼ毎日行われ、多いときには100人ほどが集まったとされるが、近くの商店街や通行人から「邪魔、危ない」と通報が相次いだ。警察も再三にわたり警告したが、従わなかったため逮捕したという。
繁華街や駅前でよく見かける、ストリートミュージシャンの演奏をどう受け止めるか。路上ライブをきっかけにメジャーデビューする「夢に続く道」とも言えるが、ルールを破るミュージシャンの存在や、迷惑・騒音と受け取る人がいるのも確かだ。路上ライブの是非について、『ABEMA Prime』で考えた。
■路上ライブの“ルール“ 取り締まりにも段階がある
大阪の「路上チェロ事件」では、自称音楽家の男性を道路交通法違反で逮捕し、罰金3万円の略式命令を下った。警察の道路使用許可を受けずに行い、音響機材を設置し、多くの観客を集め交通に著しい影響を与えたとされる。
路上ライブの“ルール”について、レイ法律事務所の河西邦剛弁護士によると、公道での路上ライブには、管轄する警察署の許可が必要で、道路使用許可申請書を提出する。ライブの音量は、条例等で規制される自治体もある。
ストリートアーティストの活動と取り締まりを研究する、目白大学准教授、路上ライブ経験者の山口晋氏は「警察の取り締まりにもフェーズがある。世間話で『やってるのか』と言うレベルから、誓約書で『やったらダメ』と書かせるなど、段階を踏んでいき、何回も行えば逮捕されるケースが、ごくまれに存在する」と説明した。
■路上ライブ賛成派「性癖のようなもの。誰もいなくてもやる」
バンド歴30年の「もりもり」さんは、路上ライブ賛成派だ。「楽しい、好きでやっている。性癖のようなもの」だとして、「多くの人に聞いてもらいたいが、誰もいなくてもやる」と考えている。「路上ライブ禁止になってもやる。人里離れたところでも」といった信念を持つ一方で、「『表現の権利』と言うのはアンチを逆なでする」「少しでも不快な人がいたら移動する」とも語る。
大学時代から続けている路上ライブの魅力は、「とにかく気持ちがいい」ことだという。「『露出』の感覚に近い。出すものが性的か音楽的かぐらいの違いで、気持ちよさのためにやっていると自覚する必要がある」。
その欲求は、ネット発信はもちろん、ライブハウスでも満たされない。もりもりさんは「レストランで食事するようなもの。それが普通ではあるが、自分たちがやりたいのは、自然に足を踏み入れ、川で捕れた魚をたき火で焼いて、ムシャムシャ食べるようなことだ」と例える。
しかし、路上ライブに賛成する一方で、今回のチェロ事件については「もっと早く捕まえてよかった。校則でスカートを短くしたり、髪形を変えたりなど、ルールは少しぐらい破ってもいいが、指導したら聞かなければならない」との考えを示した。
■路上ライブ反対派「SNS告知は『犯罪予告』だ」
反対に路上ライブを嫌う人もいる。パピ4(パピヨン)さんは、「ライブしている人とファンの独特な空気感が苦手」といい、最寄り駅でほぼ毎日、路上ライブが行われているが、「ライブを撮っている人も気持ち悪い」「仮に良い曲をやっていても近づきたくない」と手厳しい。
とくに気になっているのが空気感だ。「法にのっとっていない行為をしているにもかかわらず、主張が強い。法を破るなら、もっと控えめにしないといけないが、SNSでも押しが強いのはおかしい」と主張。
また、SNS上での路上ライブの事前告知については「ほぼ犯罪予告だ。ゲリラ的にやるならまだしも、告知でファンを集めて、交通の妨げになる」と話す。なお屋内などでのライブには参加経験がなく、「YouTubeで見る程度」だそうだ。
この意見を聞いた、モデルでラジオナビゲーターの長谷川ミラは、リアルとネットの違いについて「音楽ライブでは、音楽配信サービスとは、全く別物の体感を得られる。パピ4さんがライブの良さを感じて、それでも路上ライブが嫌いなのであれば、納得できた」と語った。
■路上ライブ出身のアーティストも多数 落とし所は…
路上ライブ出身の有名アーティストは数多い。メジャーデビュー後も路上ライブに数千人を集めた「ゆず」や、厚木・海老名などで路上ライブしてきた「いきものがかり」、大阪城ホール周辺や梅田などで弾き語りをした、あいみょんや、キーボード弾き語りが注目されてメジャーデビューした奥華子らがいる。大阪出身5人組ロックバンド「Novelbright」のように、デビュー後の路上ライブがSNS等で拡散され、人気が爆発したケースもある。
最近では、路上ライブを解放している施設もある。東京・新宿の「東急歌舞伎町タワー」では、1階敷地内で公認ストリートライブ「Kabukicho Street Live」を行っている。無料・登録制で、ミュージシャン・シンガーらが対象(プロ・アマ/オリジナル楽曲有無不問)。予約1枠あたり60分(準備・片付け時間含む)のライブができる。
長谷川は「『売れたい』と思う人が、1人でも多くの前でパフォーマンスしたいのは当然だ」といい、「イギリスにはライセンス制度があり、上手じゃなくてもオーディションを通れば、地下鉄や広場でパフォーマンスの許可が下りる。そこに『うまい』『下手』のジャッジはない。日本でもいきなり逮捕せず、アーティストを守れる形があるのではないか」と提案した。
作家でジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「『売れなくてもいいから、路上でライブしたい』という人に、間違っているとは言えない」とした上で、「法的にグレーな部分を、どこまで社会で許容するかを考えなくてはならない。『完全に白でないと』となると、息苦しい社会になる。しつこくやれば逮捕されるかもしれないが、大音量ではなく『路上の片隅で歌う』程度は許容した方が、健全な社会になる」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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