「女性起業家のうち今回のサンプルの中で52.4%の方が過去1年間、何らかの被害に遭っている」
衝撃のセクハラ被害調査を発表したのは、起業して間もない企業に資金を出資するエンジェル投資家でもあるアイリーニ・マネジメント・スクールの柏野尊徳氏だ。
起業家と聞くと会社での人間関係が少ない印象があるが、それでもセクハラが起きるのはなぜなのか?
柏野氏によると、加害者は投資家・取引先・メンターなど、起業家を支援する立場の人が多いという。柏野氏の調査では、加害者は投資家が44.4%、顧客・取引先が33.3%と、起業家にとって必要不可欠な支援する側の人から被害を受けたとの回答が多かった。また、その内容も深刻だ。
「女性差別が目立つ。能力に対して疑問を呈したり、妊娠が分かったら『妊娠したの? それじゃお金返して。起業や仕事はできないでしょう』といった発言もあった。子どもがいる男性にこのような言葉がかけられることはない」(柏野氏、以下同)
また、企業に投資する代わりに望まない関係や見返りを求める「対価型のセクハラ」も多いという。
柏野氏の調査で浮き彫りになってきた被害状況だが、声を上げたら仕返しをされたり、取引が中止になるおそれがあるため、被害の声が表に出づらい環境にあるという。その結果、泣き寝入りになる形が多かったのではないか、と柏野氏は推測する。さらにこうした被害から起業を諦めることで日本経済に大きな損失を与えているという。
「起業を諦めることで将来生まれるはずだった雇用や税金、経済的な価値が全て失われることになる。将来の価値まで含めると数十億、数百億円単位での損失が発生する可能性がある」
日本経済全体にも大きな損失を与えているスタートアップ業界内でのセクハラ問題。被害をなくすためにはどうすればいいのか?
柏野氏は、教育やトレーニング、セクハラに対する厳罰化、認識を広げて良い環境を作り、保護策を設け、評価と改善を行うことが重要だと説明した。
さらに柏野氏は調査を発表した理由について「まず認識しないと行動できない。(今回の一連の報道と)様々な方の協力で社会的に認識が広がった。一つのチームとしてセクハラを撲滅しようという心意気でやっているため、ぜひ皆さんと一緒に頑張りたい」
スタートアップ企業へのセクハラ被害が多くなってしまう要因について、山田進太郎D&I財団 COOの石倉秀明氏は「投資家やVCの立場が強いことが挙げられる」と説明した。
「ビジネスモデル上、スタートアップは投資で得た資金をガソリンにして赤字でもいいので会社をどんどん大きくし、時価総額を高めていくことが求められる。つまり、外部から資金が入らなければ続けていけない、という大前提があるのだ。そんな中、投資家やVCは資金を出すという“判断を下す側”であるため、女性起業家は何か(不快なことを)言われても『でもこの人が投資してくれるなら…』などと耐えてしまうこともあり得る」
「また、セクハラ被害に遭っても『誰に言うんだ』という問題がある。もし加害者に訴えても、うやむやにされかねず、“加害者の上の人間”に訴えてもセクハラの証拠は残りにくいため、様々なことを質問されるなどの“セカンドレイプ”に遭いかねない。加えて、金融の世界は政治の世界のように年齢が上の男性も多く、自分の周囲に(起業するような女性が)いないという理由で圧倒的に想像力が足りていない傾向にある」
では、どうすればスタートアップ業界におけるセクハラを防止できるのか?
石倉氏は「起業や会社経営を“神格化”しないこと」「起業の大変さとセクハラを比べないこと」と指摘した。
「『スタートアップ起業は大変。経営者は孤独であり大きなリスクを負っている』などと仰ぎ見る風潮は良くない。厳しい状況に直面することは種類が異なるだけで誰もが経験する。特別視する必要はない」
「起業の際に詐欺に遭うかもというリスクもあるが、セクハラをそういった懸念と比べて『そのくらい耐えるべき』などという主張がある。ただ、両者は比べるべきではなく『全部ダメ!』で終わる話だ。なぜそうならず“大変合戦”をしてしまうのか。そもそも、たとえ経営者であっても『自分は大変だった。乗り越えた』という話はダサい」
さらに石倉氏は「内からの自浄作用に任せるだけではなく、外から働きかける仕組みが必要だ」と提案した。
「見える場所で声を出しつつ、見えないところでも被害者の声をちゃんと拾って、1個1個ちゃんと処罰していくことが重要だ。そして悪質なケースに対しては“この業界で仕事ができなくなる”という社会の仕組みを作っていく必要がある」
(『ABEMAヒルズ』より)
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