人気RPGのリメイクをめぐり波紋が広がっている。ファミコン版の発売時には、店舗前に長蛇の列ができ社会現象にもなったソフトだが、今回のリメイク版からはオリジナル版からの変更点として、キャラクターの性別が廃止され「ルックスA」「ルックスB」から選択するようになった。また女性選手のコスチュームも、ビキニ型の防具の下に衣服が描かれ、ファンを中心に物議を醸している。
ゲームに限らずエンターテインメントの世界では、性別や年齢、人種などによる差別や偏見をなくすための運動「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」の波が押し寄せ、多様性に配慮する一方、ユーザーの評価を得られないものも出てきている。『ABEMA Prime』でも、エンタメとポリコレの流れ、関係について議論した。
■見た目には男女「何の配慮かわからない」
リメイクされるゲームは、シリーズ作で初めて自由にキャラクターの職業、さらに性別が選べることになり、一躍人気となった代表作。同じ職業であっても男女によってパラメーターが異なり、それぞれの得意・不得意を活かして冒険することで、ゲーム性の幅が広がった。ただ今回のリメイク版では男女が廃止され「ルックスA」「ルックスB」に変更。ただし公式ホームページなどで公開されているキャラクターは、見た目にも一方が男性、もう一方が女性のように見える。
社会学者の塚越健司氏も「事実上はどう見ても男性と女性に見える」と語ると、今回の男女を廃止しルックスと呼ぶことに「一言で言えば、作り手が下手くそ。いろいろなことに配慮しなければいけないことはみんな思っていて、多様性が大事だが、どう見ても男性・女性がいる中で、ルックスA・Bにしても誰も喜ばない。それならば、ルックスCを出せばいい。中性的なキャラクターを作って、ステータスも少し特徴があるようにすれば、ゲームとして面白くなる。ゲームとして面白くならないのに、何の配慮かわからないものにするから、下手くそと申し上げた。配慮しながら、同時に楽しいものを作ればいい。配慮は、誰かにとってつまらないものになるのではなく、みんなが楽しいと思えるもの、新しい価値を作れば万々歳になるはず」と述べた。
■配慮によって違和感のあるキャラクターデザインも
コスプレイヤーとしても活動するハヤカワ五味氏は、女性に見える「戦士」のルックスBについて言及した。「正直、性別は(ゲームを)プレイしている中で、そんなに意識するものでもなく、プレイヤーが勝手に想像するものだと思うが、気になったのが、ビキニアーマーの中にスパッツを履き始めたのが少し前からあったこと。この時代にスパッツはないのでは?と引っかかりまくっている。キャラデザインも変わっていて、その素材はないのでは」と、主に中世をイメージして作られる世界観に対して、マッチしていないと指摘した。
また男女におけるポリコレ的な配慮については「男女間の正義的な部分は、女性キャラクターがバチバチに強いところで、もはやクリアしていると思っている。一般的に男性が強くて女性が守られるというステレオタイプはあるはずだが、バリバリに女子が強かったりする。男性サイドが逆に守りに入ったりもしているので、そういう男女間があったからそのままやっていけばいいのになと思う」と、これまでの世界観で問題ないと述べた。
さらにPrime Video『バチェロレッテ・ジャパン』3代目バチェロレッテとして出演、後に経済産業省に入省したハイキャリアを持つ武井亜樹氏は「私は結構露出もするし、自分が一番きれいに見える服を着て幸せにいたい。みんなが女性っぽい服を着なきゃいけない、男性っぽい服を着なきゃいけないわけではないが、私は女性っぽい服を着たいし、男性っぽく髭も生やしてワイルドに生きたい人がいてもいい。ゲームのところでも、ビキニとかを着てその美しさで戦うのが楽しくて、自分が本来はできないことをここに投影する人もいるわけだから、エンターテインメントとしてそこも選べてよかったのでは」と、“男女らしさ”を打ち出すものへの理解を求めた。
■ディズニーはポリコレ傾倒から転換?
エンタメの世界におけるポリコレへの配慮は、海外でも事例は多い。日本国内でも有名な作品の映画、ミュージカルなどで、これまで白人俳優などが起用されていたところ、黒人俳優を起用するケースも増えた。ただし、この傾向にディズニーのボブ・アイガーCEOは昨年11月にコメントを発表。「多様性に配慮したキャラクターについては、私たちの主な目標はエンタメを提供すること。ポジティブなメッセージを組み込めれば素晴らしいが、それが目的ではない」と、ポリコレ傾倒からの転換とも思われる姿勢を見せた。
脳科学者の茂木健一郎氏は「脳科学的な視点から見ると、もちろんポリコレは時代の趨勢だから大事だと思うが、忘れてはいけないことは、『面白いというのはだいたいが不謹慎』なこと。子どもを見れば分かる。子どもは大人たちが『ああ…』と思うようなことをものすごく面白がる。エンターテインメントというか面白さは、その時々の社会の常識や、これが正しいというものを破るようなエネルギーがある。ポリコレがすごく難しいと思うのは、眠れる森の美女や白雪姫で、お姫様が眠っている時に王子がキスをして目覚めさせる、これが今の価値観ではNGだと。確かに女性的な視点から見ると…という話があるからややこしい」と述べた。
また塚越氏は、エンタメ業界側の思惑も指摘した。「実はハリウッドの戦略でもあって、ハリウッドは何年も前に白人しか賞を取らないということで、有色人種の人が怒ってボイコットみたいなことになった。それからハリウッドでは、関係者の中に有色人種をいっぱい入れることによって、黒人の人とかアジア系の人が賞を取るようになった。要するにアメリカはもう少し経つと白人が人種構成で1位ではなくなる、だから有色人種の人ももっといっぱい見てくれるように、お金の目的で作っている面もある」と語った。
エンタメ界には出演者としての立場で身を置くEXITの兼近大樹は「リメイクの話についても、もともとこういう価値観があってこうなりましたというよりは、新しい何かを毎回生み出していく方が揉めない。今『さるかに合戦』を読むと、さるがみんなからボコボコにされてかわいそうだと言っているような話がすごく多い。それなら新しい話をみんなで作って楽しんだ方が、それぞれのところでの対立が生まれなくなる。新しいものをみんなで生み出していくことが大事」としていた。
(『ABEMA Prime』より)
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