事件発生から58年、強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判で無罪が確定した。しかし検事総長は談話で控訴断念とともに静岡地裁判決への不満を表明した。
袴田さんの再審で控訴断念を表明した畝本直美検事総長は談話で、無罪判決確定まで時間がかかったことを謝罪しつつも、地裁で認定された証拠の捏造に対しては強い不満を示している。
「本判決が『5点の衣類』を捜査機関の捏造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません。しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました」(畝本氏)
しかし裁判の長期化は、検察側が再審に不服を申し入れた結果でもあった。つまり検察はあくまで犯人は袴田さんであると認識していると解釈できる。
この談話について弁護団の小川秀世弁護士は「袴田さんに対する謝罪がない。むしろ『捏造という認定自体がおかしいのではないか』そういう方向での談話だったと認識をしている。今回の検事総長の談話自体を撤回してくれというのが1つ。2番目は袴田さんに直接謝罪をしてもらいたい。3番目はきちんと捏造認定されたわけだが、証拠の開示がいちじるしく遅れている。そういう点も含めてきちんとした検証が必要である」と訴える。
その上で「無罪が確定した後、その無罪になった人に対して『やっぱり犯人だと私は思うよ』と警察あるいは検察が言うことがかつてはあった。それについて名誉毀損が認められた例がある。そういうことから、今回の検事総長の談話は非常に軽々しい。法律家としてとんでもない内容だったと思う」と疑問を呈した。
元検事の亀井正貴弁護士は「事件というのは積極証拠と消極証拠が必ずある。検察はどうしても積極証拠に向きがち。本当は消極証拠を見た上で判断しなければいけない。袴田事件についても積極証拠があるわけで、例えば袴田さんが未だに犯人だと検察が言うとは思えないが、少なくとも証拠があるとは言う可能性がある。だからそっち(有罪)に持っていく」としつつ「今の検察幹部の人たちは、いわゆる昔の検察(のやり方)を引きずっている。おそらく平成の中期以降の検事はだいぶ違ってきている」との見方を示す。
「司法よる裁判所の判断と検察の判断は今、ずれが生じてきている。裁判所は国民の声を聞き始めている。以前まで検察と裁判所は癒着と言われるくらいべったりだったが、もう離れてきている。実際に裁判所が検察官の意に沿わない判決を結構出している」(亀井氏)
検察はなぜ謝罪をしないのか。証拠の捏造はなかったと思っているのか。元検事の亀井正貴弁護士は「本当に捏造はなかったと思っていると思う」と推察する。ではなぜ控訴しないのか。「この件はもう何をしようが裁判所の判断は変わらないと思っているはず。一般的に控訴する場合に、高検と協議をするが、高検の判断などを受けてプラスの立証ができるような場合でないと控訴しない」と説明した。
袴田事件を20年以上取材してきた映画監督の周防正行氏は検察組織について「検察官1人1人のあり方と組織としてのあり方は違う。それは検察だけでなく、例えば日本人は内部告発した人に冷たい。仲間を裏切った人とされる。組織の持つ論理と、自分が正しいと思うこととの間にギャップが生じる」との見方を示す。
「村社会とよく言われるように、村の中での調和を大事にすることが全てのことであって、検察官の人たちも今までの検察庁の歴史と伝統をきちんと守っている。そう育てられている人たちなので、自分を裏切っているとは多分思っていない。組織のために生きることが正義だと考える人たちなのだろう」(周防氏)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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