「実は警察はミスではなく、悪意を持って事件を作り上げたのではないか。当初我々が考えていたよりも、ずっとこの事件は闇が深い」。高田剛弁護士(和田倉門法律事務所)が、そう指摘するのは「大川原化工機事件」だ。
大川原化工機が製造する噴霧乾燥機に「生物兵器の製造が可能」と、ありもしない容疑がかけられ、大川原正明社長ら3人が逮捕、起訴された冤罪事件だ。社長らは弁護士の指示で黙秘を貫き、11カ月間「人質司法」を強いられた。その間には元顧問のがんが発覚するも、保釈もままならず、適切な治療を受けられないまま亡くなった。
事件は検察側から、突然起訴が取り消された。しかし検察からは、起訴取り消しについて、一切説明もなく、会社側は国と都に対して国家賠償請求を行った。公判では、捜査を担当した警察官から、「まあ、ねつ造ですね」と衝撃的な証言があった。しかし昨年12月の判決では、検察と警視庁の捜査に違法があったとして、約1億6000万円の損害賠償を命じたが、ねつ造についての言及はなかった。
国側は「起訴は合理的根拠を欠くものと言えない」とコメントし、大川原社長は「あきれたという思い。まだするかと」と胸中を明かした。10月9日に行われた控訴審では、取り調べなどを担当した警察官3人の証人尋問が行われた。
証人となった警察官のうち、2人は「捜査自体は適正だった」「あざむいて調書を取ったことはない」などと捜査の違法性を否定した。しかし、うち1人は「警部・警部補レベルではどうにもならないということで、『空中戦』を上司にお願いするしかないと言っていたのと、経産省から『部長から話が来ている』ということを聞いた」と証言した。
この警察官は、その話を聞いて「圧力をかけるしかない」と理解したという。「法令を無視しているような話で恥ずかしい。日本の安全保障を考える上でも、立件する必要は全くなかった」。捜査の進め方についても「問題はありました」として、その背景には「決定権を持っている人の欲」があるのではと推測した。
担当した高田弁護士は、「一審判決で捜査の違法性が認められたが、『適正だった』と警視庁が主張して、控訴されている」と現状を伝える。「今回、証人尋問をやりたいと言ったのは、主に警視庁だ。一審の判断を逆転しようとして、行われた背景がある。証人尋問で、弁護団の目的は達成できた」と説明する。
証人尋問には、「違法性の強い捜査を行ったとされる警部補の直属の部下」が立った。「証人テストを何回もやったと思われ、スラスラと答えていた。それを想定して、後出しの“弾劾証拠”をぶつけた。感触としては『彼が本当のことを証言していなかった』と裁判所に伝わったのではないか。弁護団としては、やってよかった」。
一審判決では、ねつ造証言は採用されなかった。「現職の警察官から『ねつ造だ』との証言が、昨年夏の証人尋問で出たが、年末の判決ではスルーされた。具体的事実を認定する、客観的な証拠がなかった」。しかしその後、弁護団は客観証拠を入手したという。「ねつ造当時のメモを独自に入手して、控訴審で提出した。客観証拠を作った人が『作った』と証言している。二審では認定を得られる期待がある」とした。
証人尋問で出た「決定権を持っている人の欲」とは何か。この事件を見てきた経験を通しての、高田弁護士による見解は「この事件を担当した不正輸出を専門にする部署で、実務トップの係長と、その上の管理官あたりの“欲”」だという。「警視庁公安部の存在意義を示したい大義名分があると思うが、もっと人間くさい欲だ。『組織で上に上がりたい』『こういう状態で退任したい』といった個人的な欲も考えられる」との見方を示した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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