■精神科医「“いじめ”の一言でまとめてしまうと、今後の抑止力にならない」

 精神科医の樺沢紫苑氏は、こうした事件における「いじめ」表現に疑問を呈する。「自殺とは、自分の意思で命を絶つこと。今回は脅迫されてそこに行かせられたわけで、状況が異なる。いじめも軽いものから本当に深刻なものまであって、それらを一言でまとめると程度がブレる。不適切な表現だし、今後の抑止力にならないのではないか」。

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 被害者は冷静な判断ができない状態だったのか。樺沢氏は「学習性無力感」という精神医学の言葉を紹介。報われない経験が積み重なると、「努力しても無駄だ」と感じてしまう状態に陥るという。「いじめに対して、最初は争ったり反抗したりするが、“余計やられてしまう”“これは無理だ”となると、抵抗しなくなってしまう。電車から逃げないのはおかしいだろうとみんな思うが、それは我々の常識で考えているから。そこまで追い込まれ、正常な判断を潰されてしまう。“自分の力ではどうにもできない”という空虚な気持ちに苛まれると、人間も争うことすらできない」と述べた。

 殺人罪が成立する要件について、アディーレ法律事務所の長井健一弁護士は、「人を殺す行為」「殺意」の2つが必要だと説明。今回の事件では、「自殺に追い込むことが人を殺す行為になるのか」「人を殺す意思・死んでも構わない気持ちがあったのか」が争点になるという。

「この2点について、状況はまだはっきりしていない。過去の事案を見ると、保険金目的で被害者に命令して車ごと海に転落させた事件があったが、殺人未遂に当たると判断された判例がある。今回は、被害者が自殺を選択せざるを得ないほど追い込まれていたか、がポイントになる」

 LINEで共有された“誓約書”などは物的証拠に当たるのか。「LINEやメールのやりとり、さらに動画なども残っているようなので、あの誓約書を書かされるまで追い込まれていたこと、その選択をせざるを得なかったという証拠を集めていくかたちになると思う」との見方を示した。

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