■2社間なら“買収一択”もなぜバイデン大統領が禁止令?
日本製鉄はUSスチールの買収をあきらめない姿勢を示している。1月6日に日本製鉄とUSスチールの双方が、バイデン氏の禁止命令は「違法な政治的介入にあたる」として、禁止命令の無効・審査やり直しを求める訴えを起こした。翌日の7日には、橋本英二会長が会見を開き、「買収計画は日本と米国に極めて有益」「当社とUSスチールは一枚岩」「トランプ次期大統領にきちんと説明」との方針を示した。会見では「バイデン」と呼び捨てする場面もあった。
買収計画の経緯を振り返る。2023年12月に日本製鉄がUSスチール買収と、約2兆円での完全子会社化を発表したが、鉄鋼労組が反対を表明した。2024年1月にトランプ氏が阻止表明、3月にバイデン氏が否定的声明を出している。その後、4月にUSスチールの株主総会で承認されたが、2025年1月にバイデン氏が禁止命令を出し、日本製鉄・USスチールが大統領令の無効などを求めて提訴した。
今回の提訴では、バイデン氏らに、命令・審査の無効と、CFIUS(対米外国投資委員会)の再審査を要求している。あわせて、ライバル社「クリーブランド・クリフス」と、USW(全米鉄鋼労働組合)会長に対して、買収阻止のために違法な妨害をしたとして、妨害の停止・損害賠償を要求している。
かつて経済産業省で通商政策を担当し、アメリカの投資審査制度のアドバイスを日本企業に行っていた松本いずみ弁護士は「橋本会長の憤りは理解できる」と語る。「2023年8月に、USスチールが身売りを含めた経営方針の検討を決めてから、1年半ほど日本製鉄は交渉を続けてきた」。とはいえ、あと2週間で大統領は交代する。「バイデン政権による新たな判断は基本的にない。トランプ政権を見据えて、主張の正しさをアピールするために訴訟したのだろう」。
もし訴訟に勝ったら、どうなるのか。「両方勝っても、買収がOKにはならない。再度審査を行って、『安全保障上の懸念がある』と、同じ命令が出る可能性もある。“安全保障”は政権の裁量が大きく、不明確なのが問題だ。訴訟で解決を目指すのではなく、政権と交渉する最初のステップと位置づけているのだろう」。
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