■売り上げ、職人大幅減のはんこ業界

はんこ職人歴48年の小林成仁氏
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 “脱はんこ”をめぐる動きは、各所で起きている。2020年9月、河野太郎行政改革担当大臣(当時)が、行政機関に対して廃止を指示。約1万5000ある行政手続きの99%以上で押印を廃止した。また世論でも「はんこ=無駄の象徴」というイメージが強まり、5年前と比べて売り上げが3~5割ほど減少したとも言われる。これに伴い、はんこ職人の数も減り、全日本印章業協会によると、1989年に4370人いた職人は、2024年で735人に。35年で2割以下になったとされている。

 日本唯一のはんこ業界紙「月刊 現代印章」を発行するゲンダイ出版・代表取締役社長の真子茂氏は「はんこ屋さんというと、街中で職人さんが掘っている小さなお店で、そこが脱はんこで苦境に陥っているというステレオタイプなイメージで見られているかもしれないが、実はベンチャー企業ではインターネットでハンコの通販を始めて、株式上場まで至った企業もある。またショッピングセンターでチェーン展開している店でも、過去最高の売り上げを出したという話もある。ハンコの需要が緩やかに下がっているのは間違いないが、斜陽産業のハンコ屋さんがすごく苦しんでいるという以外の側面もある」と語った。

 はんこ職人歴48年の対岳堂印房代表の小林成仁氏は「実用的なはんこは減る一方。増えることはまず考えられない」と、現実を直視する。「実用でないところで使う趣味として楽しんでもらいたい。実際に取り組んでいるところでは、インバウンドのお客さんに彫る体験をしてもらって、喜んで帰ってもらっている。実用的、事務用品的なものだけではない面を、どんな風に広げていくかは模索しないといけない時だ」とした。日本の伝統品でもあるはんこは、外国人観光客からの評価は高く、外国人へ訪日観光情報を発信する「Fast Train Media」の記事閲覧数をもとにした調査では、お土産の1位として、はんこが選ばれている。

■インバウンドは追い風、新たなはんこの価値
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