■「説明書や学校のお知らせが読めない」“機能的非識字”のリスクも?

 “機能的非識字”について、新井氏は次のように説明する。「一般的には、文字が読めて、言葉もそれなりに知っている。識字障害やディスレクシア(学習障害の一種)ではなく、知的障害もないため、自分では不便に感じていない。しかし、説明文などは読めず、勘や経験を元に勝手に文章を解釈する。そして、人によってグラデーションがある」。

機能的非識字とは(新井紀子氏、左列真ん中)
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 困難や及ぼす影響としては、「説明書や契約書を正しく理解できない」「公的な文章が読めず社会保障制度などの活用が困難」「新聞やニュースが理解できず政治参加が困難に」「思考が浅くなり偽情報・詐欺にだまされやすい」といったものがある。世界では5人に1人が機能的非識字を含む非識字で、経済損失は世界で推定1兆1900億ドル(≒176兆円)にのぼるとされる(World Literacy Foundation、2023年)

 新井氏も「説明書や契約書は、日頃から読み慣れているわけではない。セールスマンからわかりやすいグラフだけを見せられて飛びつくが、契約書は分厚く小さい字で書かれているため理解できない。生活保護が必要でも社会保障制度につながらない、政治参加が困難でポピュリズムの影響を受ける、といったこともある」と指摘。

 文章を「どう読めばいいか」は、子どもの頃から戦略を決めていくという。「河崎さんがおっしゃったように、問題を先に見て、検索して、『その辺から答えればいい』となる。算数なら、かけ算のまとめの表題を見て、問題を読まずに『かけ算で解けばいいんだな』となってしまう。そうすると、割り算が出てきた瞬間に点数が下がる」といった弊害をあげた。

 さらに河崎氏は「長文だと誤読の可能性が高まるため、文章を短く切っていこうという流れがある。一方でSNSでは、相手の言い分を最後まで読まず、気になったことに脊髄反射で噛みついて感情的な言葉を返すラリーが、ゲーム的に繰り返されている。加えて、『大体わかっている』『ちゃんと理解しようと思ってない』といった空気が蔓延しているのではないか」と考察。その上で、「アレクサンドラ構文を解くことで、自分たちの読解能力に懐疑的になれる」とした。

■新井氏提唱の“シン読解力”、鍛え方は?
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