「病床の数より人員の余力が大事」伊藤由希子教授が解説

11万床削減は可能?
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 伊藤教授は、病床削減については「有効な医療政策の一つだ」と話す。

「現状では小さな病院がいくつも地域の中にあり、それぞれに余っている病床や人材がある状態。病床が実際の必要なサイズに見合った量に調整され、人材が必要なところに動く。そして地域にとって必要な医療機能に転換して、地域の中の病院のマネジメントも強くできれば、非常に有効な政策になると思っている」(慶応義塾大学・伊藤由希子教授、以下同)

 病床が減れば、必要な医療スタッフも少なくなり、人件費の削減にもつながる。現在の案では、具体的な削減数として「11万床」という数値が示されているが、医療は影響はないのだろうか。

 全国の病床数は、精神病床を除くと約120万床。入院者数は減少傾向、病床利用率も低下傾向にある。伊藤教授はこうしたことから11万床は現実的な数値としたうえで、「ほとんど利用されていない病床が35万床程度あるなかで、余剰病床を減らすことは医療の需給面で問題ない」と話す。

 続いて、病床削減とセットである病床機能の転換について見ていく。

 高齢化に伴い、手術や緊急対応を行う急性期病床が余り、リハビリなどを中心とする回復期病床が不足している。単純に病床の数を減らせばいいというわけではなく、適切な機能に転換することが必要になっている。

 伊藤教授によると、この機能転換が適切に実施されれば、それだけでも1兆円の医療費節減になるという。

 現在は、本来、回復期病床への入院が適切な患者が急性期病床に入院する状況が起きているが、急性期病床の医療費は高く設定されている。病床の機能転換で、実際の患者の症状と入院する病床を合致させることができれば、入院単価も相応のものに抑えられる。

病床削減をめぐって共産党の田村委員長の発言

“11万床削減”案は実現可能?
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 病床削減をめぐっては、共産党の田村委員長から以下のような発言があった

「(病床を)減らしてきたがためにどれだけコロナの時に大変な事態になったか。そのことをもう忘れたんですか」

 かつてコロナ禍では、救急患者の受け入れが困難になるなど、医療現場は限界寸前の状況に追い込まれた。ただ、伊藤教授は、「病床の数よりも人員の余力こそがより重要」だと指摘する。

「(コロナ禍では)どんな病床でも1床確保すること自体が目的になってしまい、(医療提供側の)人がいないということが起きた。人材の配置を核とした医療政策が、感染症の時であれ平時であれ必要だ。これを機に医療の人材の適切な量と機能のあり方が、国民全体で守る医療として可視化されて議論をされることが大事」

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