■被害想定と減災目標
長尾氏によれば、南海トラフ地震による死者は、「ほとんど津波が原因」とのことだ。「地震が起きてから10分以内に逃げれば、8割程度の人が助かると言われている。“津波てんでんこ”と言われるが、ドライに言うと、自分だけが逃げると助かる。その啓発活動が重要だ」。
南海トラフ地震をめぐっては、政府が3月、死者(最悪の被害想定29.8万人)を8割減、建物全壊・焼失(235万棟)を5割減とする目標を立てている。また、南海トラフ地震防災対策推進地域を拡大。1都2府27県723市町村(16市町村追加案)を対象とするもので、指定行政機関等は防災対策推進計画を作成する。
能登半島地震の被災状況も調査した金沢大学地震工学研究室・助教の村田晶氏は、「建物倒壊による死者は、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の建物崩壊で約6000人強だったが、それと同等か少ないと考えられる。全壊は235万棟との試算だが、それと生存空間がなくなる建物倒壊はイコールではない。倒壊の5割減は、10年間で取れる方策もある」と話す。
具体策としては「命を守る意味で、耐震化はとても有効だ。ぜひとも進めてほしい」と呼びかける。建築基準法は1981年に大きく改正され、いわゆる「新耐震基準」が導入された。2000年にはさらに見直され、「現行基準」として構造計算の厳格化などが図られている。「耐震補強は、現行の基準に合わせて行われる。1981年以前のものも、壁の量を増やしたり、柱とはりに金物を入れて崩れないようにしたりすることで、2000年基準と同等まで持っていけば、少なくとも建物倒壊にはならないだろう」、
■マンション耐震事情
