事故直後から沙也香さんは意識がなく、緊急の帝王切開を行った。生まれたのは1822グラムの女の子で、夫婦で決めた日七未(ひなみ)ちゃんと名付けた。「温かみのある、人への思いやりを持った優しい子に育って欲しいと話して、名前の候補として挙げたときに『日七未っていう名前かわいいね』と言ってくれた」(友太さん)

 沙也香さんが息を引き取ったのは、日七未ちゃん誕生の2日後だった。抱き上げる夢も叶わなかった。そんな日七未ちゃんだが、生まれてから一度も泣き声を上げず、目を開いたこともない。身体に酸素が届かない状態が続いたことで、脳に重い障害を負い、自分で身体を動かせず、人工呼吸器で命をつなぐ状態が続いている。

 友太さんは「『とにかく無事に生まれてきて欲しいね』という会話が多かった。妻とショッピングモールとか行ったときに、ベビー服とか一緒に……。『この服かわいいね』とか話をして、『無事に生まれたら、一緒にかわいいのを見に行こうね』『だけど、すぐに大きくなるから、買いすぎも良くないよね』と話をしていた」と涙ぐみながら語る。

 そして、「本当に無念しかない。母に抱かれず、娘自身も無念だと思う。娘自身の力で、ハードルを乗り越えて、今の状態まで来ているので。妻が残してくれた宝物だから、妻の分まで愛情を注いであげないと」と胸中を明かす。

赤ちゃんは被害者として見なされなかった
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