将棋の第73期王座戦五番勝負第5局が10月28日、山梨県甲府市の「常磐ホテル」で指され、挑戦者の伊藤匠叡王(23)が藤井聡太王座(竜王、名人、王位、棋聖、棋王、王将、23)に勝利。シリーズ成績を3勝2敗とし王座奪取に成功した。この結果、伊藤叡王は歴代3番目の年少記録で“二冠王”に。さらに、タイトル通算獲得数3期の規定で九段昇段を決めた。
伊藤叡王が、令和の将棋界をまたしても大きく動かしてみせた。両者2勝2敗のタイで迎えた最終第5局は、振り駒で伊藤叡王の先手番に。相掛かりの出だしから、伊藤叡王の作戦通りとみられる展開となった。
一方、藤井王座は序盤から果敢な攻勢に打って出る。難解な中盤戦では意表の桂成りを見せるなど新たな組み立てを披露。王者の構想力に大きな注目が集まっていたが、伊藤叡王はしっかりと持ち時間を投入しつつ冷静な対応を見せていた。
常に激しい変化をはらむ超難解な応酬に、解説陣からは「こんなに常識が当てはまらない将棋も珍しい」「異次元」などの声も上がっていたが、伊藤叡王は少ない攻め駒で適確に急所を捉えてポイントを稼いでいく。圧倒的な終盤力を誇る藤井王座だが、伊藤叡王はその力を封じ込めるように制圧。最後まで緩みのない正確無比な指し回しを見せ、伊藤叡王が待望の勝利を飾った。
伊藤叡王は、王座初挑戦で同学年のライバルとの死闘の末に王座初戴冠。2024年には、当時八冠王だった藤井王座と叡王戦五番勝負で対決し、本シリーズと同じ星取りで叡王位を奪取。絶対王者の牙城を崩したことで大きな注目を集めていた。またしても藤井王座からタイトルを奪ったことで“二冠王”となったが、伊藤叡王の23歳0カ月での二冠同時保持の年少記録は2020年8月に18歳1カ月だった藤井王位・棋聖、1992年9月に21歳11カ月だった羽生善治王座・棋王に続く3番目の快記録だ。また、この結果でタイトル通算獲得数を3期に伸ばし、「九段」への昇段も決めた。
2025年は保持する叡王位の初防衛に加えて、実りの秋に王座奪取と充実期を迎えている伊藤叡王。現在は王将戦挑戦者決定リーグ、棋王戦挑戦者決定トーナメントにも臨んでおり、藤井王座との再戦も視界に捉えている。令和の将棋界をけん引する両者が、再びタイトル戦線で火花を散らす日も近いかもしれない。
◆伊藤 匠(いとう・たくみ) 2002年10月10日、東京都世田谷区出身。2020年10月1日に四段昇段。2021年度には新人王戦を制し、将棋大賞の新人賞、勝率一位賞をダブル受賞。将棋界の次世代を担うスター候補として注目を集めた。さらに2023年度には、竜王戦でタイトルに初挑戦したほか、棋王戦にも挑戦。2024年には叡王戦で同学年の藤井叡王を3勝2敗で破り、自身初のタイトル獲得を果たした。2025年の叡王戦で斎藤慎太郎八段の挑戦を退け初防衛。さらに王座初挑戦でタイトル奪取に成功し、タイトル獲得数を通算3期に伸ばした。通算成績は186勝71敗、勝率は0.723。趣味はプロ野球観戦で、中日ドラゴンズのファン。
(ABEMA/将棋チャンネルより)





