日本にできることは?
太平洋の島国で中心的存在であるフィジーからアメリカのUSAID撤退は太平洋の島国は中国に譲ることにつながるのか?
奥寺氏は「実態はなかなか複雑だ。一部のUSAID職員がフィジーに残って大使館の中で事業を一部引き継いだのだが、その規模は非常に小さくなった。その結果、中国がどんどん入ってくるわけだが、トランプ政権の本音としてもそれは困る。そんなトランプ政権の本音が垣間見える出来事に私は遭遇した。8月下旬にフィジーのアメリカ大使館が地元の記者たちに対して電話で記者会見を行い、そこで『新しいプログラム』を発表した。トランプ政権は今後フィジーにこれまでのUSAIDとは違う形で『投資』をするという。これは数百億円レベルになると言われている。枠組みとしてはブッシュ政権期に設立されたミレニアム・チャレンジ・コーポレーション(MCC)を使ってお金を入れるという。さらによく見ると、今回USAIDでやめたのは気候変動や多様性、女性の活躍や民主主義支援など、言ってみればトランプ大統領がいつも攻撃している分野がとても多い。援助の世界でも同じようにこれを否定したわけで、その代わりに自分たちは別のものにお金使うことを打ち出した。だから『対中国』においてもやり方は変えていないが、やはり国内の対立が現場に持ち込まれたのだ。とはいえ、MCCプログラムは具体化するまで2、3年はかかるため空白期間が生まれてしまう」と明かした。
2022年にはフィジーの西側にあるソロモン諸島と中国が安全保障協力協定を結んだことも大きなインパクトがあるという。
奥寺氏は「ソロモン諸島も地政学的に非常に重要な土地だ。アメリカ本土とオーストラリア、そして東南アジアを結ぶシーレーンにあり、かつて第二次大戦中は、日本軍がガダルカナル島の戦いを繰り広げた戦略的に重要な拠点だ。中国の軍艦や治安部隊がソロモンに来る可能性が生まれたことは、オーストラリア、アメリカにとっては大きく、中国が支配する海になってしまうかもしれないという大きな危機感があった」と説明した。
さらに中国がこの地域に目をつけた思惑については「そもそもこの地域は台湾が外交関係をもっている国が多かった。中国にとって台湾を統一することは悲願であり、この外交関係をひっくり返すことは大きな意味を持つ。それと同時に、やはりアメリカ軍を追い出したいという安全保障上の戦略がある。第一列島線からアメリカ軍を追い出し、第二列島線にも近づかないようにさせるという意味で、この地域は自分たちが押さえておきたい。同時に、自分たちのシーレーンが犯されるという危機感がある。そういった意味で、南シナ海や西太平洋をきちんと自分たちが管理できるようにしたいのだろう」と分析した。
日本にできることについては「例えばツバルではアメリカが抜けてしまった後もオーストラリア、ニュージーランドや台湾が懸命に頑張っている。実は日本もツバルに対する支援国の一つで、昔から港を作ったり、学校を作ったりするなど支援をしてきた。ツバルという国と良好な関係をつないで、国際社会での一つのチームを作るということで言うと、オーストラリアなど同じ価値観を持つ国々との協力を深めることは重要だ。特にこの海域はマグロやカツオなどの漁場でもあり、日本にとって地政学的に考えてもとても重要だ。1カ国ではできなくても、日本がリーダーシップをとりながら関与を強めていくことが重要だ」と述べた。
(朝日新聞/ABEMA)
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