■洗脳された母親も“被害者”

兄の自殺については
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 山上被告は「兄が亡くなった時の母の理解」が一番のポイントだと言っているという。「あれだけ反対していた兄の死が、教団ではハッピーエンドになっている。そうした母親の理解が許せず、『もっと強硬に反対すべきだった』とスイッチが入った。また『献金のせいで自分は大学に行けなかった』と兄が荒れて、徹也本人や妹との仲が良くなかった時期もあったなど、家庭内の実相が明らかになってきた。

 裁判で、山上被告の母が合計1億円献金していたとわかった。1991年夏、夫の自殺や長男の失明に心を痛め、入信直後に半年間で計5000万円を献金。夫の死後10年以上が経った後、供養を目的に1000万円を献金した。また1998年秋、祖父の死去を受けて、母は自宅を売却し、さらに4000万円を払っている。

 鈴木氏は「ポイントは『母親も被害者』であることだ」と指摘する。「母親は『一族を救うのは自分しかいない。そのためには献金しないといけない』と、マインドコントロールされてしまった。そうして起きた家庭崩壊の悲劇であり、『ひどい母親だ』で終わる話ではない」。

 献金した1億円のうち、家族が5000万円を取り返したが、それもまた「神にささげた献金を取り返すようなことをしたから、兄の死があった」と、母親の信仰心を強めてしまう結果となった。

 母親は裁判で「教会に尽くせば家が良くなると思った」などと証言したが、現在も脱会はしていない。「教団を責める言葉はあるが、最後はどこかかばっている。マインドコントロールされている母親の姿を見せることで、この問題の実態がわかるところが、弁護人の狙いでもある」。

 妹は「徹也(山上被告)の絶望と苦悩の果て」に事件が起きたと証言した。「妹は『母の顔をした信者だ』と言う一方で、『母親の姿形をしているから、突き放せなかった』とも言っていた。この1文にカルト問題の根深さや哀愁が表れている」。

■山上被告は“テロリスト”なのか?
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