■当事者男性「本当に苦しかった」
寺山竜生さんは2013年に、自身が無精子症であることが判明した。寺山さん37歳、妻29歳で結婚し、新婚1年を期に自然妊娠を目指すも、なかなか妊娠しなかった。「奥さんが原因?」とタイミング法などの不妊治療・検査を行うも結果は出ず、不妊治療から1年弱がたち、睾丸を切って精子細胞の有無を確認したところ、無精子症と判明した。
無精子症だとわかった経緯を「僕の精子を妻が病院に持って行ったところ、帰ってきた妻から『ねえ、精子がないの』と言われた。『持ってたじゃん。どこかに置き忘れちゃったの?』と聞くと、『いや、あなたに精子がないの』と。そんな人がこの世にいるとは知らず驚いた」と振り返る。
男性不妊がわかった後、寺山さんは自己否定に陥り、「どうしてこんな身体に生まれたのか」と母への怒りもわいた。一方で、妻は「私は産めるんだ!」と前向きになり、夫婦で気持ちのズレが生じた結果、離婚というキーワードも出たという。
知った直後の気持ちについて、「精子がないのは本当に苦しかった。男として子孫を残すために生まれたのに、それができないことが屈辱だった。自分の精神を保つために、誰かに責任転嫁したいと思った時、身近にいた母親に『なんでこんな身体に』という言葉をかけてしまった。いま考えると申し訳ない」と明かした。
葛藤する中、妻から「あなたは放置していられるけど、私は生理のたびに思い出して泣いている」と言われ、何も行動を起こしていないと気付き、妻と話し合うための心の準備ができたそうだ。「妻は、僕が決断するまで答えを待っていた。『子どもを作りたい』や『養子を迎えたい』などは言わず、まず『あなたが子どもが欲しいか決めて』と言った。いま思うとさすがだと思う」と話す。
「AID」と呼ばれる、精子提供を用いた人工授精がある。無精子症など、夫の精子では妊娠が不可能な夫婦に適用され、精子提供者は55歳未満の成人で心身ともに健康、遺伝性疾患や精神疾患の家族歴がない事が条件となる。一方で、「出自を知る権利」等を巡る問題も存在する。
寺山さんもAIDを選んだが、決断するまでには2年程度を要した。「第三者から精子を提供してもらい、子どもを持つ選択をした。そもそも自分の無精子症を受け入れられていないのに、第三者の精子は受け入れられない。『無精子は個性だ』と思えるようになってから決断した」。
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