■2021年の包摂的な方針から一転…「“分かりやすさ”に流れていった」
IOCは2021年に、性の多様性を原因とした参加者の排除がないようにという包摂的な枠組みを示していた。しかし、その方針は見直され、今回の遺伝子検査導入へとつながった。この変節について來田氏は次のように語る。
「2021年の方針というのは、実際競技を運営する競技団体にとっては分かりづらくて、ルールの作り方を丸投げするという批判も受けていた。ただ、スポーツをより多くの人が一緒に楽しめるものになっていくためには、非常に優れた方針の1つだった。私は21世紀のスポーツの羅針盤になるようなものだったのではないかと思っている」
「ところが、いろいろな人たちがカミングアウトをしながら挑戦をするようになったことに対して、なかなか許容できないという動きや、トランプ大統領のトランスジェンダーの女性をスポーツから排除するような発言があって、やはり“分かりやすさ”の方にスポーツが流れていった。思考停止をしてしまった。そういう流れの中で(今回の方針の決定が)起きたと感じている」
IOCの「生物学的性別」による出場資格を公平とする方針については、女性の元アスリートを中心に決定を歓迎する声も上がっている。
「公平の基準は、世の中の変化によって変わる。人種差別が当たり前だった時代は、有色人種とそうでない人は、別々のプールで泳ぐのが当然だった。しかし、私たちは今、これを公平とは思わない。公平の線引きは変わりうるものであって、変わりうる基準を探し続けていくことが”公正“だ。公正であろうとすることによって、公平の基準が変わるということに、私たちは気づかなければならないのではないか」
三輪氏も、差別や排除をしない方向に向かうための歴史や学問を踏まえた議論が足りていないと警鐘を鳴らす。
「“分かりやすさ”と、深く考えないところでの“公平性”というところで、こういう議論が高まっている。ただ、世論の高まりは常に正しいとは限らなくて、みんなで間違うことも私たちは経験してきていると思う。世論の高まりではなく、歴史や学問を踏まえて、平等・差別をしない・排除をしない方向に向かうためにはどうすればいいかという議論が足りていないと思う」
JOC理事としての今後の対応
