■精神疾患、日本でも20年余りで倍増以上
医学誌「ランセット」掲載の論文によると、2023年時点の世界の精神疾患患者数は約11億7000万人に達し、1990年比で95.5%増加した。特に「不安障害」や「うつ病」の増加が顕著だ。日本国内でも患者数は20年余りで2倍以上に急増している。
この現状について、精神科医で産業医の堤多可弘氏は「特にコロナ禍で社会的つながりが断たれ、不調を訴える人が非常に増えた」と体感を語る。一方で、生物学的に疾患自体が急増したわけではないとし、次のように分析した。「うつ病や不安障害は症状ごとに区別されるため、ある種ファジーに診断されてしまう。日本でADHDの薬が出た時期に診断が急増した例もあるように、概念を知ることで医師の目が向きやすくなり、診断される閾値が下がったという背景がある。周知が広がり受診しやすくなったことは事実であり、増えたから悪いというわけではない」。
精神疾患への理解が進む一方、中小企業や少人数の現場を預かる経営者からは綺麗事だけでは回らないという悲鳴が上がる。テレビ制作会社代表のウエムラ氏は、現場の過酷な現実を明かす。
「大手は人が多いから、1人休んでも仕事は回る。ただし(企業が)少人数になればなるほど、1人休むといきなり(ダメージを)食らう。朝の番組に社員を派遣したが、出勤予定時間に、本人が来ないことがあった。突如、親などから電話がかかってきて『行けない』と言われたが、朝5時では代わりの人を派遣できないので自分が現場に行くしかなかった。誰か無理をして頑張る人がいるから現場が回っている。また、入社して1カ月も経たないうちに突発的に来なくなり、後からうつ病を抱えていると明かされることもある。中には今の部署が嫌だからと、とりあえず診断書をもらいに行って異動の対処を迫る利用のされ方もある。疾患の人を責めたいわけではないが、こっちがそれを全部引き受けて疲弊している」。
これに対しEXIT・兼近大樹は、社会構造そのものの限界を指摘する。「いろいろなつらさに名前がついて、理解できる社会にはなってきた。だから無茶をしてきたことに気づくハードルが下がった。ただ、今も名前がついていないつらさを抱えて無茶をして苦しい人がいる。いっそ、全員が何かしらの疾患を持った状態になれば、そこから線引きが始まって『このぐらい頑張れるよね』となり、『お前は大丈夫だろ、頑張れるだろ』という押し付けがなくなり、分かり合う社会がやってくるのではないか」。
また、コラムニスト・河崎環氏は「精神疾患で休職する人だけではなく、育休や産休、それから介護休など、いろいろな理由で人は365日、同じ組織には居続けられない。労働者一人ひとりが、オン(働く)になったりオフ(休む)になったり、ある程度の自由や『のりしろ』が保証されていれば、安心して働けるのではないか」と、組織側の受け入れ態勢の必要性を唱えた。
■診断されて症状悪化のケースも
