価値観がひっくり返った「無名塾」の衝撃――生身のエネルギーに触れ、見つめるということ
現代のSNS社会は利便性が増した一方で、孤立の入口が見えにくくなっている。能登自身、これまでの歩みの中で孤独や停滞を感じた際、自身を救い上げてくれたのは「演劇」という“生身の熱量”だったという。
「私にとって、生の希薄さから救い出してくれた存在は演劇でした。若い頃に仲代達矢さんの『無名塾』の舞台を拝見したのですが、大げさではなく自分の価値観がひっくり返るほどの衝撃を受けたんです。舞台の上で命をほとばしらせている人間たちの圧倒的な熱量とエネルギーに触れたとき、ものすごく強い『生の実感』が伝わってきた。今の時代は本当に便利になりましたけれど、生身と生身でしか受け取れないビビッドなエネルギーというものが確かに存在します。もし今、孤独や停滞の中にいる若い方がいるのであれば、そうした生の熱量を持つものに、ぜひ触れてみてほしいなと思います」
番組の終盤では、大阪・西成で暮らす松田さんという男性の姿が映し出される。男性は69歳で「友達も知り合いもひとりもいない」とカメラに明かした。その生き様と言葉は、能登の心に強く残った。
「松田さんがおっしゃっていた『現状から、抜け出すんだ、抜け出すんだ』という言葉がとても印象的で、台本にも思わず線を引きました。自分に言い聞かせるように発せられるその言葉は、見る者の胸を静かに打つものがあります。ぜひ多くの方に、このシーンを見ていただきたいです」
インターネット配信という枠組みだからこそ、地上波が踏み込まない深さまで描ききった本作。最後に、孤独・孤立を抱える人々や現代社会に向けて、能登は静かにメッセージを寄せた。
「番組を観て、すぐに何か行動を起こすということは、大変な時期にいる方にとっては難しいことかもしれません。でも、まずはこの現実を『見つめること』『知ること』。それだけでも、大きな一歩であり、大事なきっかけになるのだと思います。現代を生きるということがどういうことなのか、老若男女問わず、一人でも多くの方に届き、改めて考えるきっかけになることを願っています」
不安や悩みを抱えている方は、以下の窓口などに相談をしてみて下さい。
厚生労働省「まもろうよ こころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
※受付時間は都道府県によって異なります。
取材・文:東田俊介
写真:You Ishii



