■電池産業の裾野を広げる…「入社・返還不要」の奨学金に応募が右肩上がり
知名度向上だけでなく、産業界全体の人材育成を見据えた取り組みもある。パナソニックグループで電池事業を担うパナソニックエナジーは、「2030年代半ばまでに3万人の電池人材を育成」という目標を掲げ、「MIRAI奨学金」を運営している。
今年で3期目を迎える同奨学金は、募集人数20名に対し、1人あたり50万円を給付。こちらも返還不要で、入社の前提もない。電池産業は「多様な専門性が必要とされる『総合格闘技』のような産業」として、現時点で電池専門の道を志していない学生も含め、幅広く支援対象としているのが特徴だ。
応募数は右肩上がりに増加しており、今年は過去最高となる数百名の応募があったという。奨学生たちは、支給された奨学金資金を生活費の補填だけでなく、海外の電池活用事例の視察や、国内外の学会への参加といった「自己成長」のためにも活用しているという。また、年に3回ほど開催される「手作り電池実習」や先輩社員との座談会などのイベントを通じ、奨学生同士のコミュニティも形成されている。実際、入社義務がないにもかかわらず、毎年約20名の奨学生のうち3名程度が同社へ入社しているという。
中野氏は、この取り組みについて「研究に対しては企業系の財団などが研究費や奨励金を出しているケースもあるが、学問領域によって潤沢なところとそうでないところがある。そういった意味で、電池産業の裾野を広げる目的でこうした支援を行うのも(これまでの研究支援に)近い動きだと思う」と分析。
一方で、「文系・人文社会科学系の立場からすると、企業が魅力を感じる分野と、直接関係のない学部にいる学生との間で、また差がついてしまうのではないかという懸念もあるが、ないよりはいろいろな企業が取り組んでくれる方が良い」と語った。
「返還不要・入社前提なし」の奨学金は、企業側にどんなメリットがあるのだろうか。ガクシーの大工原氏は、「電池を研究しているという非常にニッチ、ただ重要な今の成長産業における専門的な人材確保が重要なテーマなので、そういった学生さんにアプローチしたいという意味では、パナソニックエナジーさんですら簡単ではない。奨学金に応募しに来てくれた子たち、パナソニックエナジーさんにとっては採れようが採れなかろうが今後も何らか一定のステークホルダーになるような学生に対して、奨学金を通して出会えるメリットがあるので、奨学金を結果的にあげた子たち以外に対しても自社を訴求できる」と語る。
ガクシーによると、特にエンジニア、工学系、介護・看護系、理系女性、体育会系といった専門性や特定の経験を持つ人材を求める企業にとって、在学中から学びや挑戦を支援し、就職活動が本格化する前から自社を知ってもらえる奨学金は非常に親和性の高い、他の採用サービスにはない独自の強みを持つ施策であるという。
企業の「返還支援制度」急増も…国の制度設計を求める声も
