新たな天才と呼ばれる将棋の中学生棋士・藤井四段で注目すべきは、脅威の成長力だった。デビュー以来、無敗のまま20連勝を続けている藤井聡太四段(14)の評価は日を追うごとに増すばかり。最近では対局中に食べた昼食やお菓子が人気となり、幼少期に遊んだおもちゃが売り切れるなど、「藤井フィーバー」が巻き起こっている。そんな中、先輩棋士たちの間で注目されているのが、戦うごとに強くなる成長力だという。現在、羽生善治三冠(46)と棋聖戦五番勝負を戦っている若手実力者、斎藤慎太郎七段(24)はAbemaTVの特別対局で、藤井四段と対戦した1人。藤井四段が奨励会時代にも対局した経験を持つ斎藤七段に、天才棋士について聞いた。
昨年12月のデビュー戦以来、プロ棋士になって負け知らずの藤井四段だが、もちろん負けたことがないわけではない。むしろ昨年の今ごろも負けていた。四段昇格前に所属する奨励会の三段リーグにおいて、最終成績は13勝5敗。2013年度の三枚堂達也以来の1期抜け、そして14歳2カ月の歴代最年少プロ誕生と、それだけでも十分な話題となったが、事実5回負けている。藤井四段がプロ入りする前、非公式の練習対局で戦った斎藤七段は「今とその時とは全然違う」と、現在との実力の違いを明言した。
デビュー当初の印象のままなら、いずれ誰かが連勝を止めていた。それが、戦うごとに違う「藤井四段」が出てくるから、底が見えず誰も止められていない。斎藤七段は「ここまで勝つとは思わなかった人も多いと思います。紙一重で勝ったということもあったかもしれないですが、あのメンバーにこれだけ連勝する人は、トップ棋士でもいないです」と脱帽した。実力を兼ね備えていても、緊張する対局を続けていけば正解手を指し続けるのは難しいもの。一手のミスで星を落とす、そんなレベルの戦いだ。その中で大記録を樹立していることが、周囲の棋士たちを驚かせている。
デビューから半年も経たないうちに、どんどん藤井四段自体がバージョンアップするのだから、対戦する方はたまらない。「現代の将棋にもマッチしています。もともと中学生らしからぬ落ち着きは目立っていましたが、ここ1年、2年で仕掛けのスピードが早くなった将棋にも、しっかり対応しています。仕掛けを急ぐあまりに暴走して攻め過ぎる人もいますが、藤井四段の場合はいったん落ち着けるところもあります」と、戦いに中での緩急もつけられているという。
猛烈な成長速度で強くなったきっかけは、奨励会時代では味わえなかった実戦経験にもあるという。公式戦で年齢、格ともに上の棋士たちを倒し続け、AbemaTVの対局企画「炎の七番勝負」では、羽生三冠、斎藤七段を含む6人を撃破。「あの七番勝負もいい経験、自信になっていると思います」と分析した。先輩たちと戦う度に何かを吸収し、発見し、強くなる。次に相対する時は、別人の藤井四段になっている。
将棋界に明るい光を照らす新星だが、より輝かせるためには先輩棋士たちが壁となって立ちはだかることも必要だという。「あのスター性は実力で勝ち取ったもので率直すごいと思うし、あの活躍ぶりをうらやましいとも思います。ただ、彼が成長する上でずっと勝ち続けるのはよくないことかもしれない。彼の成長のためにも、今の状況や連勝を現役棋士は止めないといけないんだと思います」と、笑顔で話し続けていた斎藤七段も、この時ばかりは鋭い目つきで答えた。
加速度的な成長が止まらない藤井四段と、壁になって立ちはだかろうと努力する先輩棋士たち。天才中学生棋士は、自らだけでなく将棋界全体のレベルすら引き上げる事態を起こしているのかもしれない。
(C)AbemaTV