9月5日に行われた将棋の第65期王座戦五番勝負の第1局、羽生善治二冠(46)と中村太地六段(29)の対局は、午前9時に始まり午後10時53分に終わる大熱戦となった。2度の食事休憩を含めると、この日2人が将棋と向かい合った時間は約14時間。各5時間の持ち時間を使い切った後、1分以内に次の手を指す「1分将棋」になってからも、長い時間勝負が続いた。逆転に次ぐ逆転の結果、対局は中村六段が勝利。全身全霊で戦い対局を終えた直後の2人は、しばらく無言なまま。究極の精神戦を終えたばかりでは無理もなかった。

 将棋界を知る人は、口をそろえて「将棋は逆転のゲーム」という。序盤・中盤でどれだけ優勢に立っていても、最後に相手の王(玉)を詰めるまでは何が起こるか分からない。実際、トップ棋士が戦うタイトル戦でも、冷静でいられる解説者や関係者には、詰みまでの手順がはっきり見えているのに、対局している本人が見落とし、大逆転負けを喫することもある。9月5日の対局を中継したAbemaTV(アベマTV)で解説を務めた中田功七段(50)は、持ち時間を使い切った1分将棋の最中は「まともな精神状態ではいられないですからね」と語った。なぜそこまで追い詰められるのか。その理由は、自分の選択が勝敗のすべてを決するからだ。

 屋外スポーツや団体スポーツは、勝敗を決する不確定要素がいろいろある。風向きが変われば、有利・不利が出る。チーム戦となれば、自分以外のプレイヤーが好不調であることで、チーム全体に影響が出る。一方、将棋は先手・後手こそあるものの、同じ室内で1対1。ひたすら自分が指す手に対して相手が指し返すという繰り返しだけに、不確定要素が入る余地がない。そのために「間違えたら負ける」という、極限の心理状態で戦い続けることになる。

 神経をすり減らす戦いは、むしろ優勢・勝勢の時こそ、その緊張感が増す。テレビドラマなどで、犯人が仕掛けた爆弾のコードを「赤か青か…」と選んで切るシーンが放送されることが多いが、棋士の心理としては、この作業を延々と繰り返すことに似ている。しかも将棋の場合は、正解のコードは基本的に1本なのに、不正解のコードは無数にある。これを最も終盤である1分将棋の状況で続けるのだから、並大抵の精神では耐えられない。当たれば生還=勝利、間違えれば爆発=敗北。対局翌日に疲労困憊でベッドから起きられない棋士が多いのは、長時間の対局による身体的疲労だけでなく、精神的疲労の割合もかなり大きい。

 ぐったり疲れたからと言って、すぐに眠れない棋士が多いのもまた事実だ。あるベテラン棋士は、その日の対局の情報を整理、さらには検討し納得するまで床についても眠れないという。勝ったならまだしも、負けた場合はなぜ負けたのかが判明しない限り、再び間違ったコードを切ることになる。長年研究された将棋は、全く同じ状況が盤上で展開されることも多い。だからこそ、次に同じ場面に遭遇した時、正解のコードを切るために努力をする。深夜の対局後に研究すると、気がつけば外が明るくなっていたということは、プロ棋士なら日常茶飯事だ。

 今では将棋ソフトが進歩し、どんな状況でも短い時間で最善手を提示する。それでも1分以内に頭脳をフル回転させ命がけで指している様は、視聴者の感動を呼ぶ。トップ棋士が緊張で手が震えているのを見ると、視聴者にも緊張が伝わってくる。勝敗が決まる1分将棋には、棋士たちの生き様が詰まっている。

(C)AbemaTV


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