将棋ソフト(AI)の進歩が目覚しい近年、若手棋士だけでなくベテラン棋士でも将棋ソフトを活用して研究することが珍しくなくなった。活用するというと、場面に応じた最善手をソフトに教えてもらう、というイメージを持つ人も多いが、実際は少々違う。若手の実力者の1人、青嶋未来五段(22)は「定跡をソフトで研究する人もいますけど、私はいろいろな可能性を考えて使っています。これからもまた、ソフト発の新しい戦法が3つ4つ出てきてもおかしくない」と語った。

 ソフトの出現により、将棋の研究は加速度的に進んだ。棋士の間では「終わった戦法」だった雁木が見直され、対局で採用する棋士も増えてきた。反面、将棋を始めたころに真っ先に覚えるべきとされた戦法の弱点も見つかり、ベテラン棋士には「今まで勉強してきたことが、ゼロからのスタートになった」と話す者もいるほどだ。

 今や、プロ棋士養成機関である奨励会でも、未来のプロ棋士たちがソフトを使ってめきめきと力をつけている。その結果が、四段昇段=プロ入り後の高勝率へとつながっている。プロ2年目で勝率一位賞に輝いた青嶋五段も同様だ。「三段の時、ちょうど強いソフトが手に入るようになった時期になったので、勉強に取り入れました。中終盤でソフトと同じ感覚になるのはなかなか難しいので、人間らしさ、ソフトらしさが出るのは序盤かもしれないですね」と説明した。

 研究の強みは、最新形を発見することだ。「ソフトがないと棋力が落ちるということはないかもしれないですけど、ソフトが指す戦法が最新形になっていく可能性があるので、そういう意味ではついて行けなくなる危険性があるのではないかと思います」というように、いつ新手が生まれるかもしれない状況の中で、過去の対局を振り返るだけでは追いつかなくなっている面もある。

 ソフトが見つけた新手をいかに早く血肉とし、気力と体力を消費する人間同士の対局で発揮できるか。また、まだ研究が進んでいない領域に進んだ場合や、時間のない1分将棋のせめぎ合いでは、やはり“人間力”の勝負になる。この点は若手もベテランも変わらない。新戦法も「もう1年も経てば、また新しい作戦が出てくる可能性は大きいと思いますね」と青嶋五段自身も覚悟している。誰かが見つけてしまえば、青嶋五段とてその対応策に追われるからだ。

 人間同士が戦う将棋だからこそ、諦めの悪さもまた青嶋五段の魅力になっている。「ソフトを使って研究するようになって、悪くなっても常に最善を求めていくという意識が高くなってきましたね。逆転を狙うというか、最善を尽くすというか」。一手の違いで、ソフトの評価値が一気にひっくり返ることをよく知るだけに、とにかく徹底的に粘る。ファンが感動する大逆転劇も、そんな研究に支えられて生まれている。ソフトによって冷静さではなく、粘りを身につけた青嶋五段の将棋が、またファンの心を打つ。

 ◆青嶋未来(あおしま・みらい)五段 1995年2月27日、静岡県三島市出身。安恵照剛八段門下。棋士番号は300。2005年9月に奨励会入り。2015年4月1日に四段昇格を果たしプロ入り。2016年度の将棋大賞では勝率一位賞(0.750)、連勝賞(12連勝)を受賞。チェスも得意で、日本でもトッププレイヤーの1人に数えられるほどの実力。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第4局(10月21日放送)で郷田真隆九段と対戦する。

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