将棋棋士、八代弥六段の通算勝率は228戦144勝84敗の.632(2017年10月25日現在)。これでも十分な高勝率ではあるが、デビュー間もない若手たちがさらに高勝率を誇る中では、やや劣る。しかし、八代には大いなる実績がある。昨年度(今年2月)、全棋士参加棋戦の早指し棋戦「朝日杯将棋オープン戦」を制したことだ。
もちろん、増田康宏四段が新人王戦を連覇したことなども偉業だ。プライスレスな達成である。しかし、全棋士参加棋戦で優勝することは価値として、難易度として一段階上と言える。全棋士が参加して争われるということは、タイトルを獲ることと難しさとしては相違ないからだ。前年度まで羽生善治棋聖が3連覇していた棋戦での優勝と言えば、お分かりいただけるだろう。
一次予選で瀬川晶司五段、中川大輔八段、阿部光瑠六段、二次予選で佐藤康光九段、橋本崇載八段、決勝トーナメントで戸辺誠七段、行方尚史八段、広瀬章人八段、村山慈明七段に勝っての史上最年少での優勝だった。賞金1000万円も獲得し、誰もがうらやむシンデレラストーリーを描いてしまった。優勝カップを手に「今も信じられません…」と語っていたのは偽らざる本音だったのだろう。
「魂の七番勝負」では、同じ早指しの将棋で、十八世名人資格保持者である森内俊之九段に挑む。「本当に上の存在というか、大実績を持たれている先生。公式戦で指したことがなかったですし、教わりたい気持ちがありました」。同じ居飛車党で、矢倉などのクラシカルな将棋を指向する八代にとって、最良の教材になる一局になることは間違いない。
静岡県東伊豆町生まれ。小学1年の時、父親の影響で将棋を始め、4年時から地元の道場に通い、棋士を志した。6年時に奨励会に入会。最初の6級で1年間足踏みしたが、地元からの声援を胸に努力を続け、18歳で四段昇段を果たした。四段昇段時の会見では「将棋は相手と一対一で指せて、本気でぶつかり合えるのが面白いと思います。好きじゃないと乗り越えられない壁がある厳しい世界ですが、頑張りたいです」と語っていた。
普段はよく笑う気さくな青年で、今回の七番勝負にも登場した佐々木勇気六段や三枚堂達也五段、高見泰地五段らと仲が良く、互いに刺激し合いながら切磋琢磨している。趣味はダーツで、腕前も相当なものだとか。
◆八代弥(やしろ・わたる)六段 1994年3月3日、静岡県賀茂郡出身。青野照市九段門下。棋士番号は287。2005年に9月に奨励会入り。2012年4月1日に四段昇格を果たしプロ入り。2016年度の朝日杯将棋オープンで史上最年少優勝。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第5局(10月28日放送)で森内俊之九段と対戦する。
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