大相撲初場所、三日目に横綱・稀勢の里に勝った逸ノ城は、今の“スー女(すーじょ)”と呼ばれる女性ファンが牽引する相撲ブームの起爆剤、火付け役となった人だ。
思い返せば2013年7月場所、まだ相撲界に入って半年も経たないザンバラ髪で美丈夫の遠藤と、エジプト出身の筋骨たくましい21歳の大砂嵐が同時に十両に昇進。新しいスターの誕生に相撲界は沸き、若い女性たちが「あれっ?」と目を向け始めた。2011年10月から始まった、相撲協会のツイッターにアップされた力士たちの写真に注目が集まり出したのも、この頃だ。
さらに、それに火を付けたのが2014年九月場所に新入幕した、この逸ノ城。ちなみに新入幕とは、6段階に分かれたランクの中で一番上の幕内の力士に昇進すること。
逸ノ城はとにかくめちゃくちゃ強かった! ふつう、新入幕の力士は15日間の場所中、8番勝って勝ち越せればヤッタ~!という風。そこを彼は13番勝って、優勝した白鵬に続いての準優勝だった。すごい!
191センチ、200キロ(当時)の巨体で無表情、腕も足もすべて太く大きく、TV中継が彼を「モンスター」と称したのもしごく納得。本人はそう呼ばれるの、イヤだったみたいだけど。
が、そんな彼が勝利インタビューで、「(体重が)また大きくなりましたが?」と聞かれたときに、「大きくなってしまいました」と、舌足らずな口調で答え、エヘッと照れた風に笑ったのに、女性たちが一気に「きゃああああああああ!」とノックダウンされた! これぞまさにギャップ萌え!
逸ノ城が見たい!という相撲女子たちが急増し、特番が組まれ、雑誌が特集し、CMにも出演。瞬く間に大スターとなった。
しかし、モンゴルのゲルに住み、雄大な自然に育まれた彼の心はプレッシャーに押しつぶされ、急速に負け越して行く。「逸ノ城駄目だね」「稽古しないらしい」「太り過ぎ」とさんざ罵られ、ダメな力士の代表のようにまで言われ、実際2016年には年間で34勝しか出来なかった(6場所×15日間=90勝の内で)。
でも、衆人環視から解き放たれた彼はまた稽古に励む。クサらずひねくれなかったのは、彼の素直の性格と、勝ってやる!という強い気持ち故だろう。2014年7月場所、まだ十両だった彼が優勝決定戦に臨む時、土俵下で狼のように眼をギラつかせていたのを覚えている。私はその眼にゾクッとし、この人、絶対に強くなると確信した。
そして今、逸ノ城は本当に強くなった。今場所は西前頭筆頭。三役(小結、関脇、大関の横綱に次ぐ役付き)の次にまで再び昇ってきた。聞いたところによると、彼は大関を目指して日々の稽古を黙々と重ねているという。
不屈の男、蘇えった男、モンゴルの蒼き狼、そして笑顔の可愛い男。一度はプレッシャーに負けたけど、今は我が道を貫く。そういう人は、強いよ。ニックネームはイチコ、いっちゃん。本名はアルタンホヤグ・イチンノロブ。
体重は今、215キロ近くあるという。でも、増えたそれは間違いなく筋肉量。今年きっと大関になるだろうと思う逸ノ城、そのときはまた笑顔にギャップ萌えしたい。【和田静香】