愛称は「あっくん」。ファンのみならず、同世代の棋士たちも親しみを込めて呼ぶ。名前は「ちから」と読む。
持ち時間各5分、1手指すごとに5秒が加算される「フィッシャールール」を採用した将棋の超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」。棋士と棋士が思考と直感を武器に、目にも止まらぬスピードで指し続けるノンストップエンターテイメントである。7月15日から放送が始まる予選Cブロックに登場するA級棋士・阿久津主税八段(36)は、永瀬拓矢七段(25)、佐々木勇気六段(23)、高見泰地叡王(24)の若手三人衆を相手に回す。
1回戦では、新タイトルホルダーとなった高見叡王と激突。良き先輩・後輩の間柄で、叡王獲得後の祝福の席で一緒にワインを傾ける様子がツイッターで公開されていたが、もちろん勝負となれば容赦はしない。公式・非公式戦の別も存在しない。阿久津八段ならば、表情には現れないような静かなる闘志を感じ取るだろう。
原点は「Inspired by 羽生善治」である。小学生の頃から通ったのは、後の国民栄誉賞受賞者を輩出した八王子将棋クラブ(東京都八王子市)。本棋戦にも出場している増田康宏六段(20)や中村太地王座(30)も同クラブ出身だが、阿久津八段もまた羽生善治竜王(47)にインスパイアされ、棋士を志すようになった一人だ。
奨励会時代から才能を発揮し、今世紀に入る前の1999年に17歳で四段昇段。同世代の渡辺明棋王(34)らとともに新しい時代の顔になる。
四段昇段直後は目立った活躍は出来なかったが、2004年に将棋大賞の新人賞、06年に勝率一位賞を受賞。居飛車党本格派の重厚な棋風ながら早指し棋戦においても力を発揮し、六段当時だった2008年度の朝日杯将棋オープン(持ち時間各40分)で優勝を果たす。翌09年度の銀河戦(同各15分)も制覇した。
2015年度、順位戦A級に初昇級したが、1勝も挙げることなく9連敗で即降級した。屈辱だったことは想像に難くないが、猛者揃いのB級1組で活躍を続け、今年3月にはA級再昇級を実らせる。今期の9戦に寄せる思いは並々ならぬものがあるだろう。
棋士というより俳優のような雰囲気を漂わせる二枚目だが、麻雀や競馬などを愛する昔ながらの棋士でもある。一見クールでありながら男気や情熱を秘めている点も「棋士らしい棋士」だと言える。一昨年に結婚し、今年に入ってからは長男が誕生したことをツイッターで告げた。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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