努力か、才能か―。どんな世界でも必ず議論される永遠の命題である。現在、棋士という職業について、答えを探る鍵を握っているのは永瀬拓矢七段(25)だろう。彼は断言しているからだ。「将棋に才能は必要ない。必要なのは努力です」と。
持ち時間各5分、1手指すごとに5秒が加算される「フィッシャールール」を採用した将棋の超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」は、今まで将棋に興味のなかったような人でも没頭できる可能性を秘めた新企画だ。理由は、一言で言えば「スピード」。目まぐるしい展開により、退屈する暇さえ与えられないエンターテイメントになっている。
7月15日から放送が始まる予選Cブロックには阿久津主税八段(36)、永瀬七段、佐々木勇気六段(23)、高見泰地叡王(25)の4人が登場する。永瀬七段は初戦で佐々木六段と対戦する。今の将棋界において最も熱いライバル関係と言っても過言ではない2人の超速バトルは必見中の必見である。
永瀬七段が2学年上だが、小学生時代から世代の頂点を争ってきた。自らの出場した小学生名人戦で、史上最年少タイの4年生で王者となった後輩は誰よりも刺激を与えられる存在だったことは想像に難くない。2人は互いに敬意を抱いており、研究会などで共に研鑽を積む間柄でもある。羽生善治竜王にとっての森内俊之九段、佐藤康光九段がそうであるように、互いの存在によって高め合い、共に歩んでいける関係なのだ。
棋士になった頃は振り飛車党だったが、居飛車党に転向した。受けの棋風でもあったが、現在はバランスの取れたスタイルに変わっている。2015年の電王戦FINALでのSelene戦での勝利は、苦境に立たされた人間の力を示す価値ある1勝だった。
早指し棋戦では2012年の加古川青流戦(持ち時間各1時間)制覇の実績がある。タイトル戦では2016年度の棋聖戦五番勝負、2017年度の棋王戦五番勝負に登場し、羽生棋聖と渡辺棋王とそれぞれフルセットの激闘を演じたが、戴冠まで一歩、いや一手だけ届かなかった。
これからどれだけ、どこまで輝けるのか。ある意味で、永瀬七段には責務がある。「才能は必要ない、必要なのは努力」と語る者が頂点を極めることは、生きる世界を問わず、多くの人によって励ましになるからである。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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