ふるさとから離れて暮らす納税者が自分の出身地を応援したい、あるいはどこかの自治体を応援したい、そんな気持ちを寄付という形で実現する目的で始まった「ふるさと納税」。納税者側のメリットとしては、寄付額に応じて翌年の所得税や住民税から一部が控除されることや、産地の美味しい食べ物などの返礼品が届くことが挙げられる。
しかし近年では自治体間の返礼競争激化も度々問題視されてきた。昨年度、ふるさと納税による税収を最も多く集めたのは大阪府の泉佐野市だったが、返礼品の豪華な肉の産地は他県。一方、最も少なかった自治体の一つ、愛知県飛鳥村では2000円にとどまった。また、寄付金の使途を選択できる場合もあるが、内容が「医療」「介護」「教育」などとなっているため、本当に自治体を支援したいという思いが伝わっているのか、という見方もある。こうした状況を受け総務省は今年4月、返礼品について"地域を応援する"という本来の趣旨に沿わないとして是正を求めている。
■共感呼ぶストーリーがカギ!7年間で67億円調達
地方創生に関わる国の委員を務める赤井厚雄氏は「自治体がコンサルティングをする人に"こうしたら集まりますよ""ここから買ってきたものを送ればいい"というアドバイスを受けてやっているケースが多い。また、担当者が交代するうちに、本来の趣旨が分からなくなってしまっている。やはり原点に戻って、自治体のどこにどんなニーズがあって、それが何に使われるのかというところを明確にした方がいい。また、お金が使われている現場を納税者が見に行くのは大変なので、何らかの形できちんと情報発信してあげることが必要だ」と指摘する。
そんな状況を打破する可能性を探っているのが、東京・文京区にあるReadyforのクラウドファンディングサービスだ。同社代表の米良はるか氏は2011年に日本で初めてクラウドファンディングを始めた。Readyforではこれまで地方創生や社会貢献事業などを中心に、7年間で8700件、約67億円を集めてきた。
米良さんによると、資金集めのカギは"ストーリー"だという。例えば「島中がレモン色に輝く日よ再び。広島に眠る耕作放棄地を再生へ!」というプロジェクトの場合、レモン農家救済というテーマから出発したが、より多くの人の共感が得られることを目指し、"島の再生"という呼びかけ方に変更。返礼品にレモンの木1株を追加した。その結果、300万円の資金調達に成功したという。
また、「70年の時を越えて、幻の国産車『くろがね四起』復元計画始動!」という、日本にたった1台しかない車を復元するプロジェクトでは、エンジニアたちの情熱の物語を発信することで、車に興味のないたちも胸を打たれ1000万円以上を資金調達した。
さらに認知症の人たちが働く「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトでは、あえて間違えることを楽しみにするような場づくりを目指した結果、1300万円ほどの寄付が集める反響を呼び、がんを患ったことのある女性たちによる相談所「がん患者が自分の力を取り戻すための場マギーズセンターを東京に」でも2200万円ほどの寄付を集めた。
■福井県で伝統を伝えるプロジェクトをサポート
そのREADYFORが今注目しているのが、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングだ。従来のふるさと納税とは異なり、自治体への寄付ではなくプロジェクトに直接資金を提供、その額に応じて住民税などから一部が控除される仕組みで、返礼品ももらえるためより多くの寄付が集まることが期待されている。
米良さんたちは、福井県の伝統を意識したプロジェクトで資金調達を目指す企業をクラウドファンディングサポート、今秋には8つのプロジェクトが新たに立ち上がるという。
福井県坂井市にある、巨大な油揚げが大人気の谷口屋では、海外の試食会費用など約200万円のうち約100万円を募る。また、生産額が最盛期の4割程度にまで落ち込んでしまった福井の伝統工芸・越前焼を少しでも盛り上げたいと、文字盤に越前漆器を使用し装飾を越前焼であしらった新たな腕時計の開発資金100万円を募ろうとしている。
READYFORの「"伝統の技術を残していく取り組みを応援してください"の方がいいんじゃないか」というアドバイスを受け、越前焼職人の司辻光男・健司さん父子が陶芸界の最高峰・経済産業大臣賞を受賞した「薄作り」という技法を用いて装飾を作ることに挑戦。0.1ミリレベルの差でパーツの試作を繰り返している。
■豪華返礼品に勝てるのか?
腕時計開発プロジェクトは1万円の寄付で「薄作り」のおちょこが返礼品として返ってくる。その一方、従来の福井県のふるさと納税では、同じ額で日本海の甘エビ30尾が返礼品として送られてくる。クラウドファンディングを使ったふるさと納税は、"豪華返礼品"に勝てるのだろうか。
米良さんは「やっぱり甘エビ食べたいか食べたくないかで決まってくると思うが、ふるさと納税が激化していった先に、是正が入っていくと思う。やはり自分が応援した県の関係ないものが届くと応援したという気持ちにならない」と指摘した。
赤井氏は「ふるさと納税は、銀行で振り込みをして、領収書をもらって、役所に持っていって、確定申告して…という、極めてマニュアルだったものが、いまはオンライン上でもできるようになった。広い意味でのFinTechが進んで行く中で、若い人は銀行に行きたくないという人が多い。支店を持って、人を雇って、人件費を払って、家賃を払ってという銀行の形が今まで通り続いていくかどうか。スマートフォンの上で完結する取引が広がり、お金の流れの担い手の形は変わると思う」と、クラウドファンディングの可能性に期待を込めた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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