「こうした事態になったことは誠に遺憾であります。深くおわび申し上げます」
28日、障害者雇用の水増し問題で矢面に立つ加藤厚生労働大臣は深々と頭を下げた。さらに同日、厚労省の調査結果が公表されると担当大臣は相次いでおわびし、遺憾の意を示す事態となった。
厚労省によると去年、国の33の行政機関のうち8割にあたる27機関で、3460人もの障害者雇用の水増しが行われていたことが発覚した。その数は、中央省庁が障害者として雇用していると公表した約6900人の職員の半数以上。中には、健康診断の結果や自己申告に基づいて、障害者として数えていたケースもあったという。水増しが最も多いのは国税庁で1022.5人、続いて国土交通省が603.5人、法務省が539.5人だった(小数点があるのは、勤務時間が短い人は0.5人などと計算されているため)。
そもそも、障害のある人が働く場を奪われないようにするため、国は障害者を一定の割合以上雇うよう事業主に義務付けている。その際、障害者手帳や特定の医師による診断書などを必ず確認しなければならない。民間企業の場合は、障害者手帳などのコピーを提出しなければならず、目標を達成できないと1人につき月5万円を国に納めなければならない。一方、国や地方公共団体は雇用した障害者の人数を報告するだけで、達成できなくても罰則はない。
障害者、民間企業から落胆や憤りの声が上がるこの問題。政治学者で東京大学先端科学技術研究センター助教の佐藤信氏は「範となるべき省庁が」と苦言を呈する。
「法定雇用率は、国や地方の行政機関の方が一般企業より高めに設定されている。つまり、公共機関が先陣を切って範を示していかなければならない。しかし、それが満たされておらず、企業に課している水準すら満たしていなかった。国と民間企業のダブルスタンダード、さらに数合わせをしていたことが大きな問題」
障害者雇用の水増しからは、数値を達成さえすれば国民が納得するという節も感じられる。その点について佐藤氏は、「数値を設定するだけで国民も『きちんとやっているんだな』という気になってしまう」と指摘。「例えば安倍政権が合計特殊出生率を上げるために、『希望出生率1.8を目指す』として予算を投入しているが、そうすると安倍政権は少子化対策に熱心だという印象になる。しかし、実際にどのように上がっているのか、細かい状況は我々も見ないようになっている」とし、チェックする側も数値だけに着目していることをあげた。
また、この“数合わせ”にはさらに問題があるとし、「女性活躍の話もそうで、2020年までに女性管理職の割合を30%にするという目標を掲げているが、これは到達できそうにない。しかし、各企業はそれに向けて数だけ合わせようと努力するので、結果としてはそれまで女性社員がいなかったところに無理やり雇用したり、管理職に引き上げたりする。その中身やプロセスに対するイメージがない」と述べた。
厚労省は、障害者雇用対策の基本方針として「人格と個性を尊重する職場づくり」を推進しているが、一方で障害者は単純作業ばかりに当てられている現状があると佐藤氏は指摘。同じ研究所に所属する、脳性麻痺のため電動車椅子で生活する熊谷晋一郎准教授の話として、「震災の時に、エレベーターが止まって自分がなかなか動けなくなってしまったと。そういう時に自立するためには、頼る先を増やす。依存する先を増やすことで真の自立が得られると彼は言っている。それが多くの研究者に注目されている」と紹介し、「障害者の方たちを『助けてあげる』という発想ではなく、『そこから何を学べるのか』を考える。そういう職場づくりが、障害者の自立に必要なことだと思う」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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