東京・新宿区の新潮社近くにある看板に24日、ある落書きがされているのが発見された。新潮文庫のキャッピコピー「Yonda?」という文字の上に「あのヘイト本、」と書き加えられ、合わせると「あのヘイト本、Yonda?(読んだ?)」と読むことができる。
ヘイト本とは、人種や民族、性の在り方などに対する差別や侮辱を内容とする書籍のこと。「あのヘイト本」は、新潮社の月刊誌『新潮45』を指しているとみられる。『新潮45』を巡っては、自民党・杉田水脈議員の「LGBTの人たちは『生産性』がない」という論文を掲載したほか、最新号では杉田議員を擁護する特集「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を組み批判が高まっていた。
この落書きは器物損壊罪に該当するが、ネットでは賛否の声が上がり中には「アートなんじゃないか」という意見もある。果たしてこれはアートと言えるのか、『けやきヒルズ』(AbemaTV)では現代アーティストの中島晴矢さんに意見を聞いた。
「法的な部分はとりあえずおいて、これをアートと言ってしまうのには違和感を覚える」と指摘する中島さん。アートやその表現においては「アートフォーム(ビジュアル)」「コンテクスト(文脈、背景)」の2軸が必要だといい、その例として2011年に美術家集団「Chim↑Pom」が落書きを付けた、渋谷駅にある岡本太郎氏の壁画『明日の神話』を紹介。壁画の右下の空いたスペースに、絵柄に合わせた原発事故を暗示させるようなパネルが設置され、それはすぐに撤去されたそうだが「岡本太郎のビジュアルを模写しているのと、『明日の神話』という絵画自体が当時の第五福竜丸事件や反原爆の高まりを踏まえて描かれたもの。これと2011年の原発事故は重なり、コンテクストができる」と話す。
こうした観点から、新潮社の看板への落書きに対しては「今回の『あのヘイト本、』に違和感を覚えるのは、『あのヘイト本、』は硬いフォントで『Yonda?』は柔らかいフォントだということ。『あのヘイト本、』が柔らかいフォントでローマ字で書かれていたら、アートフォーム的にはアートになり得たと思う。ただそれでもコンテクストは足りないと思う」と述べ、「アートではなく、『新潮45』への批判を表現する“プラカード“や”広告“としては優秀かもしれない」とした。
一方、歴史学者で東京大学史料編纂所の本郷和人教授は「こういう形で社会を批判するのは昔からあること」と指摘。「『二条河原の落書』というのは、南北朝時代の世相をああいった落書きで見せていて、現代まで伝わっている。ただ、そこに権力が介入してくると変な話になってきて、豊臣秀吉の側室の淀君が妊娠した時に、京都の聚楽第というところに『本当に秀吉の子か』というようなことが書かれたが、秀吉は100人以上殺している」と説明した。
なお新潮社は25日、今回の騒動を受けて『新潮45』の休刊を発表した。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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