“平成の大横綱”貴乃花親方が25日、日本相撲協会に「引退届」を提出した。同日に開いた会見では、元横綱・日馬富士による弟子の貴ノ岩への傷害事件をめぐる告発状について、「内容が事実無根な理由に基づいてなされたものであることを認めないと親方を廃業せざるを得ないという、有形無形の要請を受け続けてきた」と協会から圧力があったと明かした。
さらに絡んできたのが、ゆかりの深い相撲部屋で作るグループ「一門」への所属をめぐる問題。かつて、相撲協会には「貴乃花一門」を含め6つの一門があった。しかし今年6月、貴乃花親方が離脱したため貴乃花一門は消滅し、現在は5つになっている。日本相撲協会は今年7月の理事会で、「全ての親方は5つの『一門』のいずれかに所属しなければならない」と決定している。しかし、貴乃花親方は一門に入るための条件として告発の内容を事実無根だと認める要請を受け続けてきたといい、「真実を曲げて告発は事実無根だと認めることはできない。引退が最善の道であると苦渋の決断をするに至った」と説明した。
貴乃花親方の会見を受けて、日本相撲協会も反論。共同通信によると、貴乃花親方が主張するような圧力をかけたことはなく、一門に所属しないと廃業しなければならない事実はないと説明しているという。また、貴乃花親方から提出されたのは「引退届」で、親方が辞める場合に必要な「退職届」ではないため受理していないことも明らかにした。
会見で貴乃花親方が何度も口にしたのが「弟子」という言葉。約1時間半に及んだ会見の中で35回言葉にし、「一緒に同じ釜の飯を食べる、同じ屋根の下で暮らすということができないのがさみしく無念ではあります」と思いを語った。また、弟子たちが千賀ノ浦部屋に移籍した後については、「今まで以上に支えてあげたい。精神的な悩みごととかそういうものがあった時には、真っ先に来てほしいという気持ちになりました。迷った時には私のところへ来て、土俵の上で改めて体の使い方、足腰の鍛え方を伝えてあげたい」と今後も関わる意向を示した。
貴乃花親方が語った引退の経緯について、元日本相撲協会外部委員のやくみつる氏は『けやきヒルズ』の取材に対して次のように意見を述べた。
「いまだにその告発文に関してくすぶっていたのかという点と、そもそも一門のどこかに属さなければいけないというお達し自体が一般には知られていなかった。そこに属さなければ廃業という、いささか乱暴な論理を強いられていたのかと。協会は後になって、一門に属さないからといって部屋を持つ資格はない、なくすとは言っていないと言っていて、芝田山親方の言葉を信じれば今後も無所属はありだということ。であれば強要したはずはなくて、告発文の内容を全否定したままではどこにも属せない、受け入れてもらえないとそれに類する言葉で説得されたのを、貴乃花親方が拡大解釈したものと思う」
一方で、協会が貴乃花親方の引退届を受理していない点には、協会側の困惑があると指摘する。
「本来、『引退届』か『退職届』かというのは瑣末な問題なので、本当に受理する気があれば即刻受理できたはず。それをしなかったのは、まさかこんなことで貴乃花親方が退職を願い出るとは思わなかったという、(協会が)想定していなかったことの表れのように思う。協会側が貴乃花親方に翻意を迫る可能性があることの一つの示唆じゃないかと。貴乃花親方を辞めさせる目的での一門の規定の改定ではなかったと思う。貴乃花親方側が被害妄想にも似た感覚に陥っている」
そして、貴乃花親方が大相撲界に残る必要性について、「自分を慕ってきてくれた弟子たちにそんな裏切りはないと思う」と指摘。貴乃花親方が残る策として「弟子たちに声を上げさせること。指導を受けたいからこそ来たのであって、『ほかの部屋に譲渡されるのであれば自分たちは髷を切ります』ということを弟子の相違として伝えた場合に、貴乃花親方は自分の主張を貫けるのかと。そう言われて『いいよ、じゃあ切れば』とは言えない。ここは弟子をそそのかす以外に手はないと思う」と意見を述べた。また、相撲の基本は「相手の呼吸をはかること」だとし、「貴乃花親方と協会側がその基本の精神に立ち返らないでどうするのか」と苦言を呈した。
こうした内外から議論が噴出する展開に、元プロ野球選手でスポーツコメンテーターの古田敦也氏は「不可解な部分が多いのでもう少し根本的にみる必要がある」と言及。貴乃花親方の姿勢やこれまでの行動に理解を示す一方、あまり言葉に出さないやり方には、「ご自身のやりたいことや正義があるのであれば、発信していかないとファンの方もついて来ない。黙って余計なことをしゃべらないのもひとつのやり方かもしれないけど、今の時代できるだけ丁寧に前向きに発信してファンの方に応援してもらわないと、組織と戦うのは難しい」と指摘した。
古田氏は2004年、日本プロ野球選手会の会長として史上初のストライキの先頭に立っている。当時、ファンに自分たちの主張を説明することを大事にしていたといい、「僕らは12球団が存続したほうがいいんじゃないかという主張で、ファンに球団が減ってもいいのかという意味で発信を続けた。受け入れたい自治体も買いたい企業もあるのに球団を減らすんですか?と。『破壊的な発展』という主張があったけど、それは僕らには理解できないという話をファンに伝えるようにした。当時はあまり伝えるツールがなかったけど、今はSNS含めいっぱいあるので主張して欲しい。このまま終わるのはもったいない」と訴えた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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