「儲かりますよ」などと謳いインターネット上で広くお金を集めたものの、お金が増えるどころか元本まで失ってしまうという被害が最近増えているという。こういったケースは被害者が全国に点在しているため、裁判を起こしにくい現状がある。
そんな中、ネット上で被害者同士を結びつけて“集団訴訟”を起こそうというサービスが立ち上がった。ネットの被害はネットで制す――。AbemaTV『けやきヒルズ』では、サービスの運営者に取材を行った。
■「追加で損になるかも…」裁判費用が足踏みの要因に
「2~3年くらい前に投資をして、その投資金額がほぼなくなってしまった」
こう話すのは、30代会社員の伊藤拓也さん(仮名)。伊藤さんは「みんなのクレジット」という会社に120万円の投資を行った。配当とあわせて本来ならば150万円が伊藤さんの元に支払われるはずだったが…。
「ストップしたのは去年の7月かな。そこから元本は返ってこずに、配当だけ入ってくるようになった。その配当も去年の12月でストップ。今年1月からは何も入ってこない」(伊藤さん)
なぜ、配当はおろか元本すら返ってこなくなってしまったのか。「みんなのクレジット」は、ソーシャルレンディングの会社。ソーシャルレンディングとは、個人投資家からお金を集めてベンチャー企業などの中小企業に融資を行う事業のことで、企業側が支払う利子の一部をソーシャルレンディングの事業者と投資家が得るという、いわゆる融資型のクラウドファンディングだ。資金が必要なベンチャー企業にとっては銀行よりも融通が利き、投資家にとっても少額から投資できるとして人気を集めている。
「社会人になってこつこつ貯めてきたお金の中の一部。自分としてはかなりショックですね…」と嘆く伊藤さん。虎の子の120万円は、「払い戻し依頼」のボタンを押しても押しても反応しない。
みんなのクレジットは高配当を謳い伊藤さんら投資家から金を集めていたが、その実態はどのようなものなのか。貸付先の大半はグループ会社に集中、出資金の一部は前代表男性の借金返済にも充てられていたなどの理由から去年、金融庁と東京都が業務停止命令などの行政処分を下した。そして、ここから配当はストップ。投資家たちは怒り心頭となり、一部の高額融資を行った投資家は去年9月、みんなのクレジットを相手取り民事訴訟を起こした。
「出資金が返ってこないということで、いま総勢22名、金額は多い人で1100万円、総額で1億円ちょっと」(鈴木英司弁護士)
現在も裁判は継続しているが、みんなのクレジットは今年2月、31億円に及ぶ未払いの債権を約1億円で債権回収会社へ譲渡した。つまり、差額となる投資家らの約30億円は消えたことになる。現在の会社を訪ねてみると、「別会社なのでお受けしていない」と取材は断られた。
一方、みんなのクレジット前代表男性の担当弁護士は取材に対し、「消えた30億円のお金の一部は不動産事業の損失で返済が滞ってしまった」「民事裁判による仮押さえで信用不安が生まれた。騙す意図も騙したこともない」と説明。貸付先がグループ会社に集中していたことについては、「事業が軌道に乗ってから別企業への融資を増やしていた」といい、被害者へは「お見舞金制度」を作って全額を原則に粛々と支払いをしているという。
120万円を投資した伊藤さんは訴訟に乗り出せずにいる。
「前に弁護士の方にもこの話を色々してみた。そうしたら30万円近く必要になると。30万円はあくまで着手金で、裁判が伸びたら追加でお金がかかることもあると。30万円で弁護士を雇ってお金が返ってこなかったら30万円損になっちゃうので、なかなか依頼というのは決心がつかない」(伊藤さん)
■泣き寝入りを防ぐ「集団訴訟」、合計被害額は4カ月で60億円に
躊躇する理由は弁護士費用。そんな中、今年5月にインターネット上で同じ案件の被害者を募り、集団訴訟にしてしまおうというサイト「enjin」が立ち上がった。サイトを作ったのは自身も弁護士である伊澤文平さん。きっかけは弁護士としての経験だった。
「5万円、10万円の被害額の方がたくさんいるが、それを弁護士の先生に依頼して回収してもらおうと思った時に、裁判だから30万とか40万とかかかってくる。そうすると自分の被害額よりも弁護士に支払う報酬の方が高い“費用倒れ”が起きてしまう。普通の人は5万円のために40万円払おうと思わない。そういう方たちの被害額は、実は日本の中で16兆円分埋もれている」
一人では少額の被害でも「集団訴訟」なら被害額も大きくなり、また一人当たりの弁護士費用を抑えることができるという。サイトをオープンしてまだ4カ月だが、仮想通貨やYouTuberによる被害、薬害問題とすでに被害額は合わせて60億円に達している。みんなのクレジットでもすでに3億円以上の被害者が集まった。サイトは現在、随時エンジニアがアップデート中で、新たなサービスとしてチャットボットを考えているという。
少額の被害でも泣き寝入りしない――。そんな社会を目指し、「集団訴訟」を起こしたい被害者と弁護士を結ぶ新たなプラットフォームにしたいと伊澤弁護士は話す。
「今後はより社会的意義の高い、例えば夫婦別姓やLGBT・同性愛者の問題だったり違憲訴訟だったり、あるいはもう一つの軸としては残業代請求。やはりブラック企業は社会問題化していて、残業代請求はまだまだされていないものがたくさんある。それをもっと掘り起こして、企業プロセスを透明化しようと。働いたらちゃんとお金がもらえる健全な社会を作りたいという思いがあるので、そういったところを目指していきたい」
ネット上でこうしたサービスが立ち上がったことに、投資勧誘を受けたことがあるという元プロ野球選手でスポーツコメンテーターの古田敦也氏は「今後の抑止力になる」と指摘。「真面目にやっているベンチャー企業も上場企業も潰れる可能性はあって、被害者が気にしている『最初から騙す気があったのか』ということをみんなで裁判できるのはいいと思う。裁判なんて起こせないから悪いことをやっちゃえ、という人はいる。大きな抑止力になる非常にいいアイデアだと思う」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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