白球を追いかけていたころは、まさか麻雀のプロ選手としてドラフト指名されるなど夢にも思わなかった。10月1日に開幕する麻雀プロリーグ「Mリーグ」。7チームが各3人、計21人を指名するドラフト会議は、プロ野球で使用される会場と同じところで行われた。高校球児として、スカウトの目に留まったこともあった松本吉弘(協会)は、初代Mリーガーの一員として渋谷ABEMASから3位指名を受けた。「不思議な高揚感がありましたね。プロ野球のドラフトでも使う会場で、松本という人間を必要だと欲してくれたことが本当にうれしい」と、心を弾ませた。最年少26歳のMリーガーは、抜擢に応えるべく初戦からフルスイングで勝負に出る。
約2000人いると言われる麻雀プロの中で、26歳と言えばまさに駆け出しといったところだ。そんな若者が、麻雀界の新たな未来を担う21人の1人として選ばれた。「すごいプレッシャーですよね。重荷というか。選ばれなかった方々の思いや期待もありますし。指名から1カ月、心構えとか気持ちの整理をいっぱいつけてきたんですけど、なかなかまとまらないですね」と素直に心情を吐露した。
Mリーグに関して、選手たちがそれぞれ異なる感情を抱く中で、松本においては喜びと責任感が凝縮されている印象だ。「期待されているのは、すごくうれしいし、それに応えたいんです。Mリーグがずっと続いていく中で、これからという若手の麻雀プロの目標になりたいんですよ。若い世代でも成績が残せたというものを残したい。ここで負けたら『若手が出るには早かった』とかなりますからね」と、自分と同世代、さらに下の世代の道しるべとなるために、無様な麻雀は見せられない。
運命のドラフトで慕い、尊敬する2人の先輩と同じチームになった。多井隆晴(RMU)、白鳥翔(連盟)だ。トップクラスで活躍する40代の多井と、売出し中の30代・白鳥。20代の松本にとっては、世代が異なるそれぞれの見本とともに、初代王者を目指すことになった。「実はドラフトが始まる前に、Mリーグの話をしたのがこの2人だったんですよ。多井さんとは一緒に食事に行ったし、白鳥さんとは電話もして。いろいろと吸収したいと思っている2人ですね」と、伸び盛りの松本としては絶好とも言えるチームに入った。
RTDリーグでは予選で敗れたものの、トッププロ相手に貴重な経験を積み、一層たくましくなった。大きな失敗もあったが「人は痛い目を見た時に『痛い』という感覚を思い出して、それを避けるように動くと思っているんです。大舞台で受けた衝撃、ショック、悲しみが僕をかなり強くしています」と、反発力が飛躍的な成長を支えている。
チームは初代王者の座を狙いつつ、松本自身は「個人では、欲を言えば1位ですかね」と、MVPの座もしっかり視野に入れている。「最年少の僕が1位だったら、かっこいいじゃないですか。ダークホースが勝っちゃうみたいな。ファンのためにも、指名してくれた方のためにも、松本を取ってよかったというか、自分の勝利がチームを優勝に導ける存在でいられればと思います」と、その視線は力強い。緊張と興奮が入り混じったドラフト会議が、後の大選手・松本が誕生した瞬間と呼ばれるようになるかは、全て本人の力にかかっている。
◆松本吉弘(まつもと・よしひろ)1992年5月3日、神奈川県生まれ。O型。日本プロ麻雀協会所属。主な獲得タイトルは第9回TwinCUP、第25期發王位。異名は「卓上のヒットマン」。
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