手や足に障害のある選手たちが、"ラグ車"と呼ばれる競技用の車椅子に乗って行うウィルチェアー（車椅子）ラグビー。障害者スポーツで唯一タックルが認められており、過激な攻防を繰り広げながらゴールを目指す激しさから、"マーダーボール（殺人球技）"と呼ばれることもある。
16日に行われた日本選手権の決勝戦を観戦した乙武洋匡氏は「障害者というより、アスリートを見ている感じになる。競技としてメッチャ面白いよっていう売り方に変えていけたらいい」と興奮気味に話す。
試合終了後、選手たちに話を聞くと、乗松聖矢選手（FUKUOKA Dandelion所属）は「重度障害を持っている選手も多いが、それを感じさせない競技性。本当にパラスポーツの枠を超えた競技だと思うので、そこを見てほしい」と話す。永易雄選手（Freedom所属）は「"パラバブル"のような雰囲気があって、それが東京パラリンピックで終わってしまうことを懸念している。東京がゴールではないし、弱くなったら注目されないのはスポーツとして当たり前。僕たちも報道してもらえるような結果を出していく努力はしていく」と話した。
そんなウィルチェアーラグビー界にあって、実は日本代表は2016年のリオパラリンピックで銅メダルを獲得し、2018年の世界選手権では初優勝を飾っていることをご存知だろうか。17日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そんなウィルチェアーラグビー日本代表の池崎大輔選手（北海道Big Dippers所属）を取材した。
６歳の時、日本には１万人に１人とされる、手足の筋肉が徐々に衰えていく難病「シャルコー・マリー・トゥース病」を発症した。最初にプレーしたのは車椅子バスケだったが、29歳にしてラグビーに転向した。「やっぱりバスケは、手に障害があるとなかなか難しいところもあったりして。どうせやるなら世界を目指したいと考えつつ、この世界に入ってきた」。
世界選手権MVPにも選ばれる"絶対的エース"となってからも常に高みを目指しつつ取り組むのが、ウィルチェアーラグビーの普及だ。日本代表が世界一になったにもかかわらず、認知度はまだ低いく、日本選手権の試合でも観客席はまばらだ。2020年の東京パラリンピックに向けて、"パラバブル"とも呼ばれる盛り上がりをみせている障害者スポーツだが、練習施設や待遇を含め、課題は山積みだ。
「もっともっと普及させていきたい。金メダルを取ればメディアが拾いにくるから、いっぱいテレビに出ることができる。そうすれば見た人がウィルチェアーラグビーを知って、普及につながる。だから結果がほしい」。そんな思いから、大会中には来場者向けのラグ車体験を開催した。「もうびっくり。今でもドキドキしている」「楽しくて病みつきになりそう」と体験者たちは口をそろえる。見て、体験すれば魅力と楽しさを実感できるのだ。
「まずは知ってもらうこと、観てもらうこと、体験してもらうことが1番大事だ。頭で分かってもらうだけではなくて、実際にどういう衝撃で、どういう音がするのか。そういう魅力は口だけでは伝わらないので、体験してもらいたい。それを繰り返すとウィルチェアーラグビーのファンは絶対に増える」（池崎選手）。
さらに日本ウィルチェアーラグビー連盟が頭を抱えるのが、資金の問題だ。高島宏平理事長は「車椅子が高く、100万円くらいする。いくつかの施設に車椅子を置いて、健常者と障害を持った方が同時にプレーできるようになるといいなと思っているので、そこまで何とか持っていきたい」と話す。
また、笹川スポーツ財団によると、全国のスポーツ施設数は約19万カ所で、そのうち障害者専用・障害者が優先的に使えるスポーツ施設は141カ所、全体の0.07%だという。
池崎選手は「年々良くなっているということも感じる一方、まだまだ足りないということも感じる。車椅子で使えるなら子どもでも使える。そういう施設はたくさんあってもいいと思う」と話す。
池崎選手は「僕はこのウィルチェアーラグビーを、命をかけてやっている。魅力が詰まっていて、メッセージ性の強い競技だと思っている。観てもらって、体験してもらえば分かるが、なかなかそういう機会がないので、普及活動を大事にしている」と語った。
そんなウィルチェアーラグビーには独自のルールがある。「障害の重さによって0.5～3.5という７段階のポイントがあり、僕の場合は3.5。その合計が８点に収まるような組み合わせの４人（男女混合）がコートに出る。３点と３点がいたら、残りは守備用に乗っている１点と１点というふうにする」。
評論家の宇野常寛氏は「乙武さんがオリンピックとパラリンピックの境界は本来なくすべきなんじゃないかと提案をなさった。その提案を受けて僕らは考えた。近代スポーツは"五体満足主義"だ。20代の成人男性の身体が正解という発想でやっている。でも、実はそのこと自体が間違いで、もっと多様な身体を持った人が、フェアな条件でプレーできるようにゲームの方を変えないといけないと思う。ウィルチェアーラグビーの軽度の障害から重い人まで、多様な身体の人がそれぞれ持ち点制度をうまく使って、チームを組んで戦えるように進化している。まだまだ改良の余地はあると思うが、本来スポーツはこうあるべきだと思う」と指摘した。
最後に池崎選手は「2020年で終わらせるのではなく、そこからスタートして、今まで以上の盛り上がりを作っていくためにも金メダルが必要になってくる。まずは自分たちの役割として金をとること、競技のすばらしさをたくさんの人に発信していくことが大事。そういうきっかけがあって、はじめて環境が整備されていくと思う。結果を残していきたい」と力を込めた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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