都内のIT企業に勤める早川春菜さん(23)は、リュックにパソコン、ノート、筆記用具、折り畳み傘、洋服、化粧ポーチ、ハンドクリーム、財布、スマホ、充電器、最小限の着替え、といった最小限の生活必需品だけを詰め、大学時代の先輩の家などを転々としているという。いわば定住先を持たない"家ナシ生活"だ。
きっかけはアメリカでの経験だ。「2か月くらい、色んな人の家にお邪魔した。人に出会って視野が広がるし、面白かった」。そして先月、住んでいたマンションを解約した。「滞納した光熱費の督促状を見て、"払おう"じゃなくて、むしろ"家賃と電気代を払っているのか"という疑問がわいた。月々の家賃・光熱費を合わせた約11万円を、体験と出会いに使うことを選択。1週間限定のルームシェアサービス「weeeks」で暮らし始め、その後は先輩の家を拠点に、南千住と赤坂のシェアハウスを利用し、出費は月5万円ほどに抑えることができているという。
それでも男友達の「もし自分の彼女だったら結構キツい。だって知らない男がいる家にでしょ?アウトじゃないですか?」との意見に、「しばらく彼氏はできないんだろうなと思った」と苦笑していた。
■興味を持った人たちがイベントに続々
早川さんの"家なし生活"を後押ししたもう一つの理由が、"家を捨てた男"こと市橋正太郎さん(32)との出会いだ。市橋さんは京都大学を卒業後に就職した大手IT企業を一昨年に退社、年収1200万円を捨て、年収600万円のベンチャー企業「mgram」に転職するとともに、家賃13万円のシェアハウスを解約した。その後は勤務先を拠点に自由気ままな生活を謳歌していたが、ほどなくその会社も辞め、海外も含めてぶらぶら。この年末年始はフィンランドやエストニアでサウナ体験をしていたという。
そんな市橋さんは家を持たない自分のような人のことを「アドレスホッパー」と名付けた。市橋さんが主宰する「Hopping Night」には、そんな市橋さんに影響された人々が数多く集まる。「旅をしながら生活している方や、シングルマザーで子育てしながら旅をしているといった方、料理をしながら世界中旅をしている方など、人が人を呼んで、どんどん増えている」と市橋さん。早川さんも、そんな参加者の一人だったのだ。
参加者たちは「市橋さんの企画を見て、家を捨てる決断をした」「家を所有する価値がそんなになくなっていると思う。やっぱりもうシェアする時代なのかな」と口を揃える。実際、参加した40人のうち、半数近くがアドレスホッパーだ。
親の反対に遭いながらも、アドレスホッパーになるべく実家を出る決意をしたのが、女子大生の高瀬夢奈さんだ。「ずっと実家に住んでいて、都内には興味もなかったけど、1週間weeeksで暮らしてみたら都内に出たくなった。そこから市橋さんに影響を受けて、この暮らし方、めっちゃいいやん、となって。実家に帰るとなると、22時が終電なので縛られている感じがしていた。それだったら今日はここ、明日はここみたいに、気分次第で自由に暮らすのが良いなと思った。ハードルが高いと思われがちだが、みんな友達の家に泊まったりしていると思う。気軽に、3日くらいとか挑戦してみると良いと思う」。
■アドレスホッパーに最適なサービスも
早川さんによると、必要のない洋服や家具などを預かってくれるだけでなく、不要だと思えばヤフオクに出品代行もしてくれる「サマリーポケット」を利用、服は着ているものと着替え用の2着だけ。毎日洗濯し、1~2週間着回す。「よく周りから変わっているねと言われるけれど、日常生活に不自由はない」。
この「サマリーポケット」や前出「weeeks」だけでなく、家ナシ生活を後押ししてくれる様々なサービスも登場している。たとえば「メチャカリ」は月額5800円から利用できるファッションレンタルサービスで、1度に3アイテムまで借り放題。送料は無料で、クリーニングも不要だ。その他にも洗濯代行の「しろふわ便」など、ネットやスマホと連動した様々なサービスが活用できる。
幻冬舎の人気編集者、箕輪厚介氏は「若い人たちにとっては都内の家賃が高すぎる。"東京で住むため、生きるために働いている"という不毛さを感じている人は多いと思う。それをシェアして、好きな人達と暮らせればハッピーだというのはあると思う」と話した。
■地方創生でも活躍?
「アドレスホッパー」は、地方に好循環をもたらすかもしれない。例えばリクルートが発表した2019年のトレンド予測の中には、「デュアラー」という言葉が登場する。地方物件の価格低下やシェア文化の浸透、別荘以外の低コストな選択肢が増えたことを背景に、都心と田舎の2つの生活=デュアルライフを楽しむ20~30代が増加しているという。
従来の地方創生では完全に生活の拠点を移してくれる移住者を求めていたが、定住しなくても定期的な滞在、仕事などで地域との縁を持ち継続的に関わりを持つ人たちを増やすスタイルは、アドレスホッパーのライフスタイルと合致しているのだ。
秋田県大館市にある「お試しサテライトオフィス」では、地方自治体が企業やフリーランスを支援しながら、大館市に拠点を設けるメリットを探ってもらうという制度だ。往復の旅費やレンタカー代も半額補助しており、1泊3000円のコテージにはWi-Fiや家電製品、ビデオ通信機器なども完備。市内の温泉も100円で利用可能だ。
自身の経験を踏まえ「世界を含めて色々な都市に行って何が良いのかを蓄積しているので、地域の観光資源や良いところを客観的に見出して、PRに使ってもらったりできると思う」と話す市橋さんも、手軽にアドレスホッパーを体験できるサービスや、クラウドファンディングでアドレスホッパーの本やマガジンを出版するなどの挑戦を始めている。
定住先を持たないアドレスホッパーが、地方創生にはどのような恩恵をもたらすか、今後も注目だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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