将棋の羽生善治九段(48)が3月17日に放送された第68回NHK杯テレビ将棋トーナメントで郷田真隆九段(48)を下して優勝、同棋戦11回目の優勝とともに、史上最多となる45回目の棋戦優勝を果たした。昨年12月、竜王位を失い、27年ぶりに“無冠”となったことで、衰えを口にする者が増えた中、若手有利と言われる「早指し棋戦」で優勝をしたことで、改めて羽生九段の健在ぶりが際立った。
将棋界の公式戦は、それぞれの持ち時間が数時間のものと、数十分の「早指し」と呼ばれるものに大別される。8つあるタイトル(竜王・名人・叡王・王位・王座・棋王・王将・棋聖)は、どれもタイトルのかかる番勝負となれば、最短でも各1時間(叡王戦の一部)、最長では各9時間(名人戦)にもなる。一方、タイトル戦ではない公式戦「一般棋戦」は早指しで、最長の朝日杯将棋オープン戦でも、持ち時間は各40分。今回、羽生九段が優勝したNHK杯は、若手棋戦も含めて2番目に短い、持ち時間10分・切れたら1手30秒未満(他に各10分の考慮時間)だ。
この早指し棋戦、将棋界の間では、瞬時の判断力に勝る若手棋士が有利である、というのが定説だ。デビュー以来、快進撃を続ける藤井聡太七段(16)が連覇したのも朝日杯。その他、デビュー間もない若手が好成績を収めることもある。竜王、名人といったタイトルホルダーが、若手に黒星を喫するという事態も珍しくない。それだけに、羽生九段のNHK杯優勝は11回目の優勝、45回目の棋戦最多優勝、というだけでなく若々しさも感じられる優勝だ。今期においては、ベスト4がすべて羽生九段と同年代の「羽生世代」で占められたということもあり、50代も近づくトップ棋士たちの実力のものすごさが、改めて感じられるところだ。
今期の羽生九段は、世代交代の大きな流れを象徴するような20代の実力者たちを打ち倒しての優勝を飾った。3回戦では、タイトル経験がある菅井竜也七段(26)、準々決勝では豊島将之二冠(28)に勝利した。特に豊島二冠は今年度、羽生九段から悲願の初タイトルを奪取、さらに二冠にもなり、先日には名人挑戦権獲得も決めた現役最強クラスの棋士。この豊島二冠の勢いを食い止めての栄冠は、さらに優勝の意味を高めたと言ってもいい。
数々の最多記録を樹立した羽生九段。昨年、惜しくも達成されなかったタイトル通算100期も、十分に達成できる力は持ち続けている。最年長タイトル奪取記録は、大山康晴十五世名人の持つ56歳11カ月。挑戦ならば66歳11カ月。偉大なる先輩の年長記録も、この若々しさを保ち続ければ更新が期待できる。
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