「日本との間に条約があって、日本が攻撃されたら我々は第3次世界大戦を戦うことになる。我々の命とコストをかけて。だがアメリカが攻撃されても、日本はアメリカを助ける必要がない。彼らはソニーのテレビでその様子を見ているだけだ」。米FOXニュースの電話インタビューに応じたトランプ大統領の発言が波紋を広げている。
トランプ大統領をめぐっては、米ブルームバーグが25日に「日米安保条約は不公平であり、それを破棄する可能性について側近に漏らした」と伝えていた。この時も菅官房長官が「ご指摘の報道にあるような話は全くない」、河野外務大臣も「(ホワイトハウスから)アメリカ政府の立場とも全く相いれないものだと報道を否定する話が来ている」とコメントするなど、G20を目前に控え日米双方が報道を否定、火消しに走る中で飛び出した発言だった。
菅官房長官は「安保条約第5条において、我が国への武力攻撃に対しては日米が共同で対処する、ここは定めている。全体として見れば日米双方の義務のバランス、ここはとられていると思っているので、片務的というところには当たらない」とし、政府間において日米安保見直しの話は「一切ない」と改めて強調した。
27日の軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「日米両政府が閣僚レベルで報道の火消しをしていたのに、あろうことか大統領自ら大量の油を投入した。前日のブルームバーグの報道の信憑性は高いものだったと受け止めるべきだと思う」と話す。
「トランプ大統領は選挙戦から一貫して"日米安保というのは片務的でフェアではないと"と指摘してきたので、今回もその偽らざる本音を爆発させているという側面があると思う。しかしG20が始まるタイミングというのが偶然の一致とは考えにくいので、貿易通商の問題などで、"俺らが守ってやってるんだから、お前らふざけたこと言うなよ、もうちょっと譲歩しろよ"とぶつけてくる、その前の厳しい牽制球を投げたということではないか」。
潮氏はその上で「G20後も防衛コストの負担増を要求してくる可能性があると思うが、だからといって直ちに払います、というのは間違っていると思う。お金で解決することだけを考えるのではなく、"アメリカが攻撃された時に日本はテレビを見ているだけじゃないか。なぜ日本が攻撃されたら我々が命をかけて戦わなければならないのだ"という問いかけに対して日本はどう受け止めるのか。その点を考えてみるべきだと思う。もちろん日本がタダで恩恵を受けているというわけではないが、アメリカ側からしてみれば、日本は一方的に守ってもらっているだけではないか、というこれまでもフリーライダー、"安保ただ乗り論"はこれまでも指摘されてきたし、湾岸戦争の時、日本は巨額な支出をし、戦争が終わった後に自衛隊を派遣したわけだが、世界から全く相手にされなかった。海上自衛隊はアデン湾では海賊対処をしているが、近くのペルシャ湾を航行する日本のタンカーを護衛しているのはアメリカ海軍。ここでも"日本は何もしないのか"という厳しい目が世界から注がれてきた。再びタンカーが攻撃されたとき、"憲法9条があるから"といいって一隻も出さずに済むかどうか。仮に第3次世界大戦が起きた場合にそういう対応を取れば、湾岸戦争の時以上のしっぺ返しを食らうことになるだろうし、日米安保は間違いなく破棄されることになると思う。ことをアメリカに押し付けてきた。そのアメリカ軍がなくなる。専守防衛という現在の憲法9条の解釈の範囲内でやっていけるのか。いきなり、地球の裏側に自衛隊を派遣しろということはトランプさんも求めているわけではないと思う。しかし、“何かある度に日本は金だけ払ってごまかしている。それは許されない”というメッセージは受け止めるべきだと思う」と指摘した。
そこで潮氏は、日本の採るべき方策について、集団的自衛権の限定的な行使容認ではなく、いわゆる"フルスペック"の行使を容認すべきだと主張する。
「この数日間のトランプ発言で、日米安保がなくなるというのが現実に起こり得るんだ、と多くの日本人が気づいたと思う。在日米軍が撤退し、沖縄から基地がなくなれば事故や犯罪がなくなると喜んでいる人もいるだろう。しかし、それと同時に沖縄で在日米軍が担っている抑止力、具体的に言えばアメリカが担っている攻撃力を失うということは、それを誰が埋めるのか、という話になる。現状の"専守防衛は、一番危なく、一番人の嫌がる攻撃力をアメリカに押し付けることで成り立っている。今の日本の防衛関係費は5兆円ぐらいだが、いざとなればアメリカ軍が攻撃してくれるという。これは防衛力に特化した数字。もし攻撃力も自前で持つとなれば、到底5兆円では収まらない。たとえばNATO加盟国のようにGDPの2%ということになれば、日本としては倍増すべきだということになる。ただ、いわゆる戦力不保持を憲法で定めている以上、そのためには憲法改正が必要になってくる。私の考えでは、集団的自衛権を今以上に行使できるようにすれば、トランプ大統領にこういうことを言われる筋合いもなくなる。安保法制は私に言わせれば中途半端な"限定容認"だったが、それですら大きな論争を生んだ。やはりきちんと議論をして、トランプが投げてきたボールをどう受け止めるのかを考えるべきだと思う。また、個人的にトランプさんに会って話ができるとすれば、"9条はあなたたちアメリカが私たちに押し付けたんでしょ"と言いたい」。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「僕は田舎の公立学校で育ったが、"戦争しないと決めたから戦後の日本は平和になった"と教わり、"戦争しないと決めただけでは平和にならない"とは教わらなかった。だから大人になって、世界で戦争が起きなかった年は無かったと知って、ある意味で日本は戦争を外注、肩代わりしてもらってきたのではないかと気づいた。今こそもう一度、そのことを思い出さないといけないと思う」とコメント。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「歴代アメリカ政権の中にも、内心では"日米同盟は片務的だ"と思っていた人はいたはずだ。しかしそれを表に出すことはなかったし、"世界平和を守るため、我々は世界の警察になる"という姿勢を曲がりなりにも維持してきた。今回の発言は国内向けのものだったかもしれないが、今後、アメリカの世論の後押しを受ける可能性があるし、トランプ大統領の任期後も続いていく議論になり得ると思う。アメリカが"世界の警察"をやめたあとの世界は、ヨーロッパ、日本、あるいは中国も含めた一種のネットワーク化された枠組みを共同で作り、その抑止力で平和を保っていかなければならないと考えられている。"われらは、平和を維持し、(中略)国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と日本国憲法前文にあるように、そうした取り組みの中に日本が参加するのも、リベラリズムとしてありなのではないか。しかし、そういう話をすると、すぐ"戦争したいのか!"と言われてしまう」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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