京都を中心に活動するお笑いコンビの問題提起が賛否両論の嵐を巻き起こしている。問題となっているのは、京大大学院修了の小保内太紀(26)と京大総合人間学部3回生の知恵の輪かごめ(21)が今年4月に結成したばかりの「カフカと知恵の輪」を襲った、ライブ中の"いじり"だ。
小保内によると、ライブにはコンビにとって初対面の若手男性芸人10人ほどが出演しており、女性はかごめ1人だけだったという。そして"こんな病院は嫌だ"という大喜利で挙手したかごめに対し、他の芸人が「京大生って考えると、なんかエロいね」と発言。かごめは黙り込み、小保内がツッコミの範囲内で止めに入るも、他の芸人から「エロい」「エロく見える」といった発言が繰り返されたという。「"俺、こいつとやりたい"ぐらいの意味合いでしかない"いじり"を僕がそれを止めるだけ、という時間が流れた。男性芸人側は"悪ノリ"に入っていて、やりながら"おもろい"という雰囲気になっていたけど、客席に伝わってはいなかったと思う」。
かごめも「"こんな病院は嫌だ"というお題で、エロとか関係ない答えをしてお客さんに笑ってもらっている時に、後ろから脈絡もなく"なんかエロいな"と言って、大喜利で取っていた私の笑いを後ろから潰しにきた。全くウケてなかった。女性のお客さんも多かったので、どちらかと言えば引いちゃっている方もいらっしゃったくらい。"エロいじり"という取り上げられ方をされているが、いじりではなく、セクハラだったと思う」と振り返る。
芸人たちはライブ終了後の楽屋でも同様の発言を続け、小保内との間で言い争いに発展する場面もあったという。「"そういうのがNGだったなら、事前に言ってくれ"と反論された。でも、そもそもウケるわけがない無駄なくだりだったし、舞台の状況として異常だった。深夜のライブで、過激な方が面白いという雰囲気だったのなら別だが、観光客も多い昼間の寄席。親しみやすいものを演るはずなのが、真逆を行っていた」(小保内)。
「『人によって色んな価値観がある』『エロいじりがNGなら最初に言っておくべき』など反論されましたが全部大きな間違いです。色んな価値観があるからこそ他者を尊重せねばならない、エロいじりをするなら事前に許可を取れ、が正解です。そんな程度の低い詭弁でごまかせる相手だと思われたのも残念です。あなたたちは売れるべきではありません。こってりした勘違いと一生添い寝していなさい。あるいは早く生まれ変わってください。以上」。小保内がこの日のことを綴ったツイートは大きな反響を呼んだ。
■お笑い芸人たちの見方に、かごめは「自分が笑いに変えないことでセクハラは終わると思う」
女芸人研究家で、お笑いコンビ・馬鹿よ貴方の新道竜巳は「無名時代の芸人というのはスベるばかりで、先輩の真似をしながら、どうすればウケるかという繰り返している。地下ライブでは急に脈絡のないことを言うとウケるというセオリーのようなものもあり、フリがあってオチがあって、という流れができない芸人がそれでウケを取ることもありがちだ。今回のようないじりも、1人目まではオッケーな場合もあるし、そこで滑っても愛を感じることもある。2人目がフォローや視野を変える意味でかぶせることもあると思う。しかし、今回はそうではなかったのに、2人目、3人目…とかぶせていったのが問題だった。また、芸人になりたての頃はめちゃくちゃモテないし、この子と絡みたい、何かトークをしたい、でも照れて楽屋では言えない…という状況の中、舞台上でテンション上がってしまって、発言によって自分の欲求を満足させた、という部分もあったかもしれない。ボケに乗っかって笑いにしているんだぞ、という"逃げの思考"が働いた可能性も高い」と分析した。かごめはこれに対し、「笑いのためではなく、女の子と絡みたい?楽屋で喋りかけられないくせに、最悪だと思う」と強く反発した。
お笑いコンビ・パンサーの向井慧は「お笑いの中には、格闘技でいうところの目潰し・金的もありという人もいれば、ちゃんとグローブをつけて、パンチだけで戦う人もいる。いわば"流派"がたくさんあるし、自分自身の中でも"ここからダメでここからOK"というラインは曖昧だ。唯一ルールがあるとしたら、ウケるか・ウケないか。例えば女の人の話をする時、"この前、女と"と言うよりも、"この前、女性と"と言った方がウケは良いとか、"ブスだな"ではなく、"個性的な作りの顔だね"と言い換えるとか。もちろんウケればなんでもありというわけではないし、ウケないのであれば、もちろんそんないじりはしない。そして、いじりはいじめではないと言う人がいるかも知れないが、その二つは切り離せないと思うし、本気で嫌だと思って返したことが、めちゃくちゃ面白くなってしまう時というのがある。コンプレックスが武器になり、仕事が増える人もいる。かごめさんがそうなる必要はないと思うが、本気でエロいじりを拒否する姿がウケて、それで売れてしまう可能性もある」と指摘した。
かごめは向井の意見を踏まえ、「21年間、女の子として生きてきたので、セクハラもたくさん受けてきた。テレビはもちろん、日常生活でも見るのも嫌いだ。それを笑いに変えろとも言われるが、そこで面白く返したらみんなが乗っかるし、笑いに変えることで続いていってしまう。自分が笑いに変えないことでセクハラは終わると思うし、何も言わず抵抗する姿を見て、"やめてくださいよ~"と言って、なんとか笑いで返そうとしてしまっていた女の人たちに勇気を与える、という方向を目指したい」と話した。
■小保内「セクハラがダメなのは、セクシャルだからではなく、ハラスメントだからだ」
紗倉まなは「かごめさんが不快な思いをしたことは女性としてわかる。でも、その人が戦っているフィールドによって褒め言葉と貶し言葉というのは変わってくると思う。私の職業の場合、性的欲求のはけ口として見られることが価値なので、"エロい"という言葉は生業をかたどる言葉であり、褒め言葉になることが多い。その時の空気感や言う人・言われる人の関係性によって難しいと思う」とコメント。
乙武洋匡氏は「お笑い芸人かどうかに関係なく、日本人には"空気を壊してはいけない"という考えが根強いと思う。問題のライブでも、2人目、3人目といじりを重ねていく中、面白いかどうか、道徳的にどうかということよりも、この流れを断ち切ってしまうのは良くない、それが空気を守るということだ、という判断基準ができ上がっていったのだろう」と指摘。「難しいのは、視聴者にしても観客にしても、"この人は嫌がってないからOKだけど、この人は嫌がっているからダメ"という具合に細分化して見てはくれないこと。それは僕自身も味わってきたことで、"乙武が障害の自虐ネタをやっているんだから、他の障害者にも障害者いじりをしていい"と短絡的に考えてしまう。そこが理解されない限り、"あの人はいいけど私たちはダメだ"はなかなか理解されない」と話す。
視聴者からも様々なコメントが寄せられた。「仲の良い仲間だったら"うるせー"と返せるが、他人だと、どう返せば角が立たずに穏便にやめてくれるのかと思う」「いじられる立場から言うと、相手に愛情があるかどうかがいじりかハラスメントの境界線だったりする」といった意見のほか、「流せるくらいがスキル。嫌なら本人に直接ガチでやめてと伝えればいい。お笑いにモラルを持ち込んでほしくない。そういうめんどくさいことから解き放たれるのがコメディの良いところだ」「自分たちが面白くないことを言い訳にセクハラを使っている印象がある」といった意見もあった。
小保内は「"めんどくさいことからの解放"で言うなら、それこそ日常で"エロい""ブスだ"と言われるほうが"めんどくさい"のではないか。逆転している気がする」と反論。また、芸人の"鉄板"とされてきた、デブ、ブス、ハゲ、バカ、アホといった様々な"いじり"や、それを芸にしている人もいることについても「これらのワード自体がダメだというより、乗っかる文脈、情報によってセーフ、アウトは変わるということ。セクハラがダメなのは、セクシャルだからではなく、ハラスメントだからだ。紗倉さんに"エロい"と言うのがセーフなのは、セクシャルな発言ではあっても、ハラスメントにはならないからだ。つまり、同じ言葉でもハラスメントになる文脈とならない文脈がある。ネタにすることが良い・悪いという話とは別だ」とし、「今回の出来事で、ある種セクハラなどのいじりに対する"フリ"が終わっているので、受け入れても拒否しても、ある程度くだりが成立する準備ができた。今はフラットになんでも受け止められる」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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