今年の高校球界を代表する強打者と言われているのが石川昂弥(東邦)だ。小学校6年時には毎年年末に行われる12球団ジュニアトーナメントで中日ドラゴンズジュニアとしてプレー。愛知知多ボーイズでプレーした中学時代も強打のショートとして活躍し、高校入学時には大阪桐蔭の西谷浩一監督も獲得に熱心だったと言われている。父親が東邦出身だったという縁もあって石川自身も東邦に進学。入学当初から大物1年生として注目を集めた。
しかし石川の高校野球生活は決して順風満帆だったわけではない。1年春からベンチ入りを果たしたものの、夏は故障の影響もあって代打での出場のみに終わる。秋からは本格的に主力となり東海大会の準決勝、三重戦では9回に劇的な逆転ツーランを放ち、選抜出場に大きく貢献。しかし優勝候補として出場した翌年春の選抜では花巻東(岩手)の前に初戦敗退。石川自身も4打数ノーヒットと大舞台で結果を残すことはできなかった。
ようやく期待通りの活躍を見せ始めたのは2年秋からだ。新チームではエースとなり、投打にわたる活躍で東海大会に優勝。そして2年連続出場となった今年春の選抜では5試合全てに先発、打っても決勝戦での2発を含む3本塁打を放つ獅子奮迅の働きを見せ、チームを30年ぶりの優勝に導いた。決勝戦で2本のホームランを放ち、投手としても完封勝利をおさめたというのは長い甲子園大会の歴史でも史上初の快挙である。
この活躍でドラフト上位候補という評価は不動のものとなったが、最後の夏は石川にとって悔しい結果となった。1回戦の第1打席でいきなり一発を放ったものの、2回戦の星城戦では投手として先発して7回9失点で降板。チームもまさかのコールド負けとなったのだ。
しかしそんな石川にその雪辱を晴らす舞台が用意されていた。選抜での活躍が高く評価され、U-18W杯のメンバーに選出されたのだ。26日に行われた大学ジャパンとの壮行試合では4番、サードでフル出場。2回にはチーム初ヒットを放つと、5回には一時逆転となる左中間への2点タイムリーツーベースを放つなど3安打、2打点をマークし主砲として見事な活躍を見せた。高校ジャパンが大学ジャパンと壮行試合を行うのは今年で4回目だが、高校ジャパンの選手が3安打を放ったのは石川が初めてである。
石川の魅力はなんといってもそのリストの強さにある。185センチ、87キロという堂々とした体格だが、決して力任せにならずに上手くヘッドを走らせることができるのだ。大学ジャパンとの壮行試合でも慣れない木製バットに苦労する選手が多かったが、石川はしっかり自分のポイントにボールを呼び込んでとらえることができていた。最初の2安打は会心の当たりではなかったが、いずれも難しいボールをミートしたもので、改めてそのリストワークの良さを見せつけた格好となった。春まではどうしても踏み込みに弱さがあったものの、それもこの夏は改善してきている。右方向に合わせるだけでなく、長打にできるというのは得難い長所と言えるだろう。
今大会のメンバーは石川以外の内野手が全員右投げ左打ちで、純粋な強打者タイプと言えるのは石川ただ一人である。そういう意味でも石川にかかる期待は大きい。壮行試合で見せたようなバッティングを世界の舞台でも披露し、チームを世界一に導くような活躍を見せてくれることを期待したい。
文:西尾典文(にしお・のりふみ)
スポーツライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。