自分を応援してくれるファンへの思い、申し訳なさ。人のためにと思って土俵に立とうとした結果、逆にファンに支えられて賜杯を抱くことになった。9月8日から始まる秋場所で、先場所に続く2場所連続優勝を狙う横綱・鶴竜（井筒）は「（名古屋場所の）優勝は、自分だけでやっているんじゃないなと、ファンに支えられて土俵に立てているんだと、改めて感じた」と振り返った。日頃から心優しい横綱として知られる鶴竜は、しみじみと当時の心境を口にした。
14勝1敗で6度目の優勝をした名古屋場所。ただ場所前には、まるで戦える状態ではなかった。「腰を痛めちゃって。（初日の）6日前でも、稽古ができない状態で」、名古屋場所での4年連続休場の可能性も十分あると悩んでいた。「これはいかんなと思って。なんとか間に合わせて出たい」と、治療とともに急ピッチで調整を進め、なんとか土俵に立つことはできた。「場所に出て、腰が痛くなったら、その時はみなさんわかってくれるだろうと」。やれることはやって、それでも無理なら仕方ない。とにかく、3年続けて「横綱・鶴竜」をしっかりと見せられていない、名古屋のファンに向けて、1日でも多く土俵に上がることを優先した。
相撲同様、前へ前へと考えた結果からか、腰の状態は日に日に良化。「そうすると自ずと相撲もよくなってきて。本当によかった」と、自分でも驚くほどに事態は好転した。場所前、自分の状態だけを考えれば、そのまま全休もあったようなところだが、結果も体調も最高の状態で、暑い名古屋を終えた。
不安を抱える腰の状態は、今でも良好。バスケットのイベントでゲストに招かれた時は、かつての経験をいかしてか、華麗な3ポイントシュートを決めて、会場のファンを沸かせた。余興とはいえネットでも大きな反響を呼んだ見事な技を、今度は本職である相撲で披露し、さらに両国国技館を沸かせる。
