時として大きなミスをしたことが、かえって転機になることがある。プロ麻雀リーグ「Mリーグ」、EX風林火山の滝沢和典（連盟）がそうだった。昨年10月2日の第2試合、東2局の親番で、第1ツモを取り忘れるミスを犯した。新たなリーグの開幕2日目。未体験の大舞台に緊張もあったのか、Mリーグ初の少牌という記録が残った。だが、今の滝沢は「いきなり少牌して、ある意味よかったかもしれないですね」と笑顔で語る余裕がある。その表情は、ちょうど1年前の開幕直前に見せていたものとは、まるで違った。
滝沢といえば、Mリーグ初のドラフト会議で、指名された21人のうち、唯一会場にいなかったことでも知られる選手だ。子どもの面倒を見るため、という理由もあったが、ここ数年の不振から指名されないのでは、という本人の思いも強かったからだ。EX風林火山の2位指名でMリーガーとなり、滝沢復活を祈るファンの期待を背負って挑んだ戦いの場。そこで犯した失態が、逆に「失敗しても思い切って打とう」という前向きな気持ちに切り替えさせた。試合後、Twitterのアカウントを一時的に「滝沢少牌和典」とした。「世間にやってしまったことを素直に言いたい気持ちでしたね。言ってしまった方が楽だったんでしょう」。失態を自ら広めてまで開き直ったことが、個人スコア2位の大活躍につながった。
麻雀の内容自体には、決して満足しているわけでもない。「一歩間違えたら、という局がかなり多かったですね。ツキもありますし、数字ほどの内容ではなかった気がします」と自分を戒めた。「道中見返すと、紙一重の局が多かった」と、やはり実力者ぞろいMリーグは、安心して戦える局など一つもない。ただ、何よりも心の余裕を保つには十分なポイントは得られていた。「（リーグが）始まったころよりは、自信を持って打てたかなと思います」と、リーグが進むにつれて強い滝沢が戻ってきた。
クールなイケメン選手が、卓の前で表情を崩すことはない。「冷めてるように言われちゃうこともあるんですけどね。準優勝でも悔しくないですって言っているようなもんで」と、ちょっと困り顔を見せたが、内心では熱く燃えている。仲間が待つロッカールームでは、いつもよりも感情を解き放つ滝沢が出ることもある。「ピーンと張り詰めた後だから、思わず出ちゃうんでしょうね」。今年の滝沢は、どれほどの数だけ、ロッカールームで満面の笑みを浮かべるだろうか。
◆滝沢和典（たきざわ・かずのり）1979年12月6日、新潟県生まれ。B型。日本プロ麻雀連盟所属。主な獲得タイトルは第32・33期王位、第2回モンド王座、第13回モンド杯、第4回野口恭一郎賞、第1回麻雀トライアスロン雀豪決定戦、U-50 日テレプラス麻雀リーグ2018他。著書は「滝沢和典のMリーグ戦記」他多数。
◆Mリーグ 2018年に発足。同年10月から7チームによるリーグ戦を行い、初代王者の赤坂ドリブンズが優勝賞金5000万円を獲得した。2019シーズンから新たにKADOKAWAサクラナイツが加入し、全8チームによるリーグ戦に。各チーム3人ないし4人、男女混成で構成され、レギュラーシーズンは各チーム90試合を行う。上位6チームがセミファイナルシリーズ（各16試合）、さらに上位4位がファイナルシリーズ（12試合）に進出し、優勝を争う。
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