「選手としてメディアに取り上げていただく機会も増え、警察官を辞め、格闘家に転身したことで迷惑や心配をかけた母や祖母は、いまは息子というよりも『格闘家・愛鷹亮』のファンの一人だと言ってくれています。なんだか嬉しいですよね……」
8月にエディオンアリーナ大阪で行われた立ち技格闘技団体「K-1」の興行においてK-1史上最高ともいえる“ジャイアントキリング”を演じたクルーザー級の愛鷹亮(K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)が24日、横浜アリーナで開催される"K-1冬のビッグマッチ 第1弾 横浜"「K-1 WORLD GP 2019 JAPAN~よこはまつり~」で同級現王者シナ・カリミアン(イラン・WSRフェアテックス・イラン)との格闘人生を賭けたダイレクトリマッチに臨む。
磨き続けた右のスイングフック一発で身長2メートルの王者を「失神KO」し、一躍その名を知らしめた愛鷹。シナの巨体が前のめりに崩れ落ちるシーンを観たファンの多くは、「日本人は無理だ」と言われ続けてきた重量級での“新星誕生”に興奮したはずだ。「20代のうちにK-1チャンピオンになる」という夢を掲げていた愛鷹自身、夢が目標に近づいたことを強く自覚しており「あと一歩。腕一本失ってでもベルトを奪い取りたい」と決意を滲ませる。
前回の試合直後のインタビューでは「一発を当てるための組み立てを練り直して、さらに凄いのを当ててやります」と答えた愛鷹だが、前回の勝ちが自信となり、この三カ月の練習を後押し。さらに充実したトレーニングの中でいくつかのパターンを反復して身につけたことによって「以前KOした右が来ると思っていたら、他のパンチが当たる。他のパンチを意識させることができれば、右のスイングフックが当たる。3カ月前の自分より確実に強くなっている自負はある」と言い切る。
ただ今回の王者は、予期せぬ敗北を喫したことで前回の姿とは異なるだろう。そのことについて愛鷹は「一回勝っていますけど、向こうも油断はあったはず。さらに強い王者と闘うことで会場も沸くだろうし、自分自身、とても楽しみでもあります」と冷静に語った。
■3カ月で10回以上泣いた…勝つイメージは万全(笑)
パターンは増えても、右のスイングフックにはこだわりを持っている。前回の試合では、試合前に打ち込み過ぎて一週間前にヒジを故障。当日は痛め止めを服用してリングに上がった。完全には完治していないことをうかがわせるテーピングが肩からヒジ上にかけて貼られていたが「騙し騙しというか……結局はフルで打ってしまうんですけどね(苦笑)。ただ痛みはありません。仮に痛みがあってもリングに上がってしまえば関係ない。ベルトを獲るために『腕一本くれてやる』くらいの気持ちでいます」と話す。
自身の腕を破壊してしまうほどの愛鷹のパンチの威力について、ミットを持つジムの渡辺雅和代表は「腕を持って行かれそうになる選手は今までもいたが、亮の場合は、カラダごと持って行かれる。気を抜けば肩が抜けてしまうのでは、パンチをもらえば死んでしまうのではという怖さを感じたのは亮がはじめて。日本人でそんなパンチを打てるのは亮だけだろうし、シナと対峙して倒せるのも亮だけだろう」と証言する。
その一方、厳しい戦いが予想される今回について渡辺代表は「スイングフックと同等の威力を持つパンチをいくつか用意してきた。無責任な言い方かもしれないけど、勇気をもって踏み込んで当てて欲しい。ベルトを獲ってくれると信じている」と期待を寄せた。
「幼稚園の時に親が離婚したこともあり、母が仕事で家にいないときは、祖母に育てられた。そのことをマイナスに感じたことはないけど、父親という存在や強さというものに対して人一倍執着があるんです。貧乏な生活というほどでは無かったけど、決して裕福とは言えなかった。だからこそ自分の力で成り上がって、家庭を持ったら子どもには自分が経験した以上の生活をさせてあげたいし、母や祖母にはラクをさせてあげたい」
格闘家としての目標を改めて口にした愛鷹にとって、シナとのダイレクトリマッチは格闘人生を賭けた大一番になるだろう。前回の劇的勝利の後には巨体とコワモテに似合わず、両腕を天に突き上げてピョンピョン飛び跳ねたことで、そのギャップが話題にもなった。「もう、アドレナリンが全開で。そんなとき人間って、飛べるんですね……」と笑顔を見せた愛鷹は、次戦に向けた勝利のイメージも十分にわいているという。
「イメージ力は強い方なんです。だから勝ってベルトを巻いた姿を何度も想像しています。この3カ月間で10回以上は勝手にうれし泣きしていますよ(笑)」
様々な団体の世界大会で活躍するシナはイランでは英雄と呼ばれている。まさに立ちはだかる「大きな壁」となるが、見事打ち破り、正真正銘の“男泣き”を見せて欲しい。