試合終了と同時に、解説を担当したK-1のレジェンド・魔裟斗が「これは解説不要でしたね」と笑った。迫力も説得力も充分「見れば分かる試合」だったということだ。試合の主役はベテラン・山崎秀晃。舞台は11月24日のK-1横浜アリーナ大会だった。ここで山崎は、新世代の瑠久と対戦。1ラウンド1分24秒でKO勝利を収めている。
試合開始直後、一気に踏み込んでパンチを打ち込むと連打。ダウンを奪うとその後もラッシュが止まらない。立て続けに3ノックダウンを奪っての勝利は“ゴールデンフィスト”の異名にふさわしいものだった。
鮮やかな勝利だったが、実は山崎は入場直前に作戦を変更していたという。会場に流れる選手紹介VTRで相手に挑発されたのがきっかけだった。目にもの見せてやろうというわけだ。
「普通はジャブを突いて、距離を取ってという選手が多い。そこで、まず相手をパニックに陥れてやろうと」
試合後の瑠久は「自分が弱かった」と繰り返した。それだけショッキングな敗戦だったのだ。山崎の速攻は、単なる“ケンカ上等”でもなかった。コーナーに相手を詰めて連打しながら、攻撃をボディに散らしたりバックブローを打ったりしてバリエーションをつけている。フィニッシュとなったのは得意技のかけ蹴り。ミドルキックと見せかけて変化する変則のキックだ。会場中が熱狂する中で、山崎だけは落ち着き払っていた。
「思い描いたプログラムで、しっかり試合を終わらせることができた」
今回は若い瑠久を迎え撃つ“下剋上マッチ”という位置づけだったが、自分自身の完全復活をかけての試合でもあった。2連勝、かつ久々のKO勝利。「アグレッシブファイト、効かせる攻撃を体現できた」ことが一番の収穫だったという。観客には「ゴールデンフィスト復活ということで」とアピールしている。
次の目標はスーパー・ライト級のベルトだ。12月に安保瑠輝也とゲーオ・ウィラサクレックが対戦。その勝者と闘うため「いつでもできるように仕上げて待つだけ」だと語った。山崎は新生K-1の旗揚げ戦で行なわれた王者決定トーナメントにも出場。ケガや手痛い敗北を経験しながら諦めずに闘い続けてきた。そして今回の試合で見せた強さは、山崎がまったく衰えていないことを証明するもの。2020年が、山崎のキャリアにおけるクライマックスになるかもしれない。