初勝利で我慢した涙を、人目もはばからず流した夜がある。人気の女性プロ雀士は、多くのファンとの触れ合いで、何度も目元を拭った。プロ麻雀リーグ「Mリーグ」、セガサミーフェニックスの和久津晶(連盟)が、今年最後の試合となった12月20日の試合で、待望の初勝利を挙げた。最高の一日でも笑顔でインタビューに答えたが、3日の夜に感じたファンの温かさは、笑顔だけでは受け止めきれなかった。
黒く日焼けし、長い茶髪でギャル路線を行く人気選手・和久津。ルックスのイメージそのままに“超攻撃型アマゾネス”の異名とともに、今年からMリーグの舞台に飛び込んだ。所属する日本プロ麻雀連盟では、最高峰タイトル「鳳凰位」を争うリーグでは最高のA1リーグで戦い続けるなど、その実力はファンであるほどよく知るところだ。多数のテレビ対局にも出演していたこともあり、Mリーグでも“アマゾネス”っぷりを存分に発揮するものと思われていた。
ところが、現実は正反対だった。トップどころか、2着までに入りプラスポイントを得るのも苦労した。「Mリーグは、いつもよりみんなが緊張しているイメージはありました。チーム戦の重みなのか、打牌のスピード、押し引き、スピード感も全然違う。見せ牌、落牌のイエローカードとかも緊張感があるし。そこに必要以上に、意識を持っていかれて緊張したこともあります」と、今まで経験してきた試合とは違う何かに、じわりじわりと手が縮んだ。
元ダンサーという経歴もあってか、自分がどう見えているか、どう見せるかは、人一倍に意識が高い。“超攻撃型”という言葉に、自分を寄せすぎたこともある。「キャッチフレーズから入ってくる方も多いので、そういう戦い方を期待されているのかなと。それに応えたいし」。ただ、数千人いると言われるプロから選ばれた者が集った最高峰リーグでは、全力で戦う以外のことを入れられる余地などなかった。長年プレーしてきた日本プロ麻雀連盟での戦いとはスピード感も違えば、全プロの共通意識も違う。そもそも麻雀に対しての考え方が違う。自分でも強引かと思った攻めを諦め、自然な打ち筋を心掛けたつもりだったが、今度は守備的になりすぎた。悩んでいるところに追い打ちをかけるように苦戦。和久津が「たくさんの目」と語る中、最も多くの割合を占めるファンからも、その多数の目で見た様々な意見が何度も、たくさん寄せられた。
そんな中で迎えたのが12月3日に行われ、1000人近いファンが集ったパブリックビューイング「プレミアムナイト」。麻雀界において、過去最大級とも言われたイベントで、試合のなかった和久津は、盛り上げる側として会場にいた。人気選手であっても、見たことのなかった景色。普段から「広げる努力、もっと外の世界へ」のアピールが必要だと訴えてきた本人にしても、楽しみにしていた日だった。全ての予定が終わり、最後はファンを見送るハイタッチ。選手列の先頭で構え、両手を挙げ、笑顔でその手を合わせ続けた。
ただ、あるタイミングから表情がみるみる変わっていった。徐々にこみ上げたのか、心を打たれるひとことがあったのか。「目元に光るもの」という量ではない涙が、どんどんと流れ出た。最初は手で拭えたが、それでも追いつかず、一瞬列を離れてタオルで拭いた。どんな結果が出ようとも真正面から受け止め、次の試合に向かう。弱音を吐かず、むしろ周囲にも気を配る。そんな選手が、この数分ばかりは心を解き放って、泣いた。
2019シーズン、29選手において最も苦しみ、最後に今期初勝利を挙げた選手。現状のMリーガー・和久津には、こういう評価がついてくる。これをどこまで上書きするか。その楽しみが2020年には待っている。パブリックビューイングについては、こんなことを話したことがある。「いずれ1万人、2万人も夢じゃないと思っているんですよ。もっともっと個人のタレント意識を深めれば。私も努力は怠らないし、5万人集まる時代が、私がまだ現役のころに来てくれたらいいなと思います」。今とは比べられないほどこのリーグが盛り上がったころでも、和久津はきっと初勝利までの道のりと、その道中にあった号泣の夜は忘れない。







