7日にシドニーで行われたテニス国別対抗戦「ATPカップ」ブルガリア対ベルギーの一戦。試合を決めたのはエースの意地だった。
試合終了後、いつもは冷静な男が雄叫びを上げた。ベルギーのエース、ダビド・ゴファンが絶体絶命のピンチから脱出し、ベルギーが逆転でグループC2位を決めた。
ベルギーは絶対に負けられない戦いが続いている。選手兼監督のスティーブ・ダルシーは35歳のベテラン。月末の全豪オープンでの引退を発表している。今回のATPカップが最後の国別対抗戦の試合となる。
実はベルギーは国別対抗戦に強いチームだ。トップ100に安定して二人を送り込むことも難しいチーム状況ながら、2015年と2017年に二度のデビスカップ決勝進出を果たしている団体戦巧者だ。その決勝進出の立役者がダルシー。デビスカップ通算23勝12敗、勝率65%という驚異的な数字を叩き出している。
そんなダルシーへ最高の花道を。ベルギーチームの想いは一つになっている。狙うは2回もあと一歩で届かなかった優勝の頂、ただ一つだ。ブルガリア戦には勝利が絶対条件。しかし第1試合に臨んだダルシーは、クズマノフに敗れる波乱を演出してしまった。これで残り2試合を取ることが絶対条件となった。
そしてベルギーには厳しい条件が突きつけられた。エース対決となるゴファンとブルガリアのディミトロフのカードは、過去ゴファンが1勝8敗と極端に苦手にしている。2017年のツアーファイナルズ決勝でも、ビッグタイトルを目の前でかっさらわれた因縁の組み合わせ。
3連勝を目指す快進撃中のブルガリアの勢いは強く、1セット目をあっさりディミトロフに取られてしまう。もう、ここで終わりなのか。
しかしこの日のゴファンは違った。1セットダウンから驚異の挽回。いつもなら届かないボールもきっちり拾い、次第に形勢を自分に手繰り寄せていく。この試合を中継したAbemaTVの放送においても「スーパー・ゴファン覚醒」と称されるほどのパフォーマンスで、苦手のディミトロフを逆転で下した。
最終戦となったダブルスもベルギーが勝利し、3位でスタートした最終日、逆転でグループCの2位に滑り込んだ。さらに他のグループの結果も味方して、ベルギーは2位チームの中で最も良い成績となり、決勝トーナメント進出を果たした。あと1セットで敗退の場面から、必死につないだ結果だ。
オーストラリアは日本と季節が反対なので、今は夏真っ盛り。ベルギーの夏はまだ終わらない。頂点に向けて、決勝トーナメント初戦ではいきなり最強スペインと激突する。
文/今田望未(テニスライター)