ATPツアー(男子プロテニス協会)が主催する国別対抗戦『ATP カップ』は、開催国オーストラリアがベスト4に勝ち進んでいることもあって大盛り上がりだ。準々決勝でそのオーストラリアとの死闘の末に敗れたのが、エースのアンディ・マレーを欠いた状態でグループステージを1位で突破してきたイギリス。自国にグランドスラム大会を持つテニス大国同士のプライドをかけた戦いは、シングルスで星を分けてダブルス勝負に。そのダブルスも最後の最後まで息を呑む展開を見せ、スタンドを熱狂の渦に巻き込んだ。
ついに終わったと誰もが思った。シングルスプレーヤーのニック・キリオスとアレクス・デミノーのペアで挑んだオーストラリアに対し、イギリスはジェイミー・マレーとジョー・ソールズベリーとの手堅いダブルス・スペシャリストを当然のように送り込んだ。10ポイント・マッチタイブレークにもつれた勝負は、オーストラリアの8-6から3ポイント連取のイギリスがまずマッチポインを握るが、ここからシーソーゲームの展開となる。
オーストラリアのマッチポイントを一度しのいだイギリスは、11-10で2度目のマッチポイントをつかむ。サーブはデミノーだったが、ソールズベリーがうまくリターンを返し、マレーのポーチボレーをやっとラケットに当てただけのキリオスのボールは、ちょうどネット際のマレーの目の前にバウンドした。これ以上ないチャンスボールだ。しかし左利きのマレーがバックハンドで決めにいったボールは浮き、ベースラインを越えた。
この瞬間、試合を中継するAbemaTVの視聴者からのコメント欄もコメントというよりもほとんど悲鳴で埋まった。
「ああああああ」「アウト!????」「ジェイミイイイ」「えええええええ」「こんなことあるんか」「ジェイミーがこんなミスするとは……」
頭を抱えるマレー。グランドスラム優勝経験もあるダブルス元世界ナンバーワンのまさかのミスに会場は騒然となった。その後もミニブレークの奪い合い、ピンチの凌ぎ合いは続いたが、18-16という今大会最長のマッチタイブレークの末にオーストラリアが劇的すぎる勝利をおさめた。
弟のアンディの完全復活へのスタートの舞台として注目された大会でもあった。それが叶わなかった弟の無念も背負って気合い十分の大会だっただろう。ミスの痛手が心配されたが、ジェイミーはツイッターを更新。「イギリスチームの代表としてATPカップに参加できて本当に楽しかった」「1週間を通してすばらしい雰囲気で、試合中ずっとコートでチームメートのサポートを受けられて最高だった」。本心はともかくポジティブな感想に、ファンも胸をなで下ろした。
文/山口奈緒美