初めての試みで、こんな絵に描いたようなクライマックスがあるだろうか。世界の強豪24カ国が集って10日間に渡って行なわれてきたATP主催の国別対抗戦『ATPカップ』は、世界1位のラファエル・ナダルを擁するスペインと、2位のノバク・ジョコビッチを擁するセルビアが決勝戦で激突。ダブルスまでもつれた末、セルビアが初代チャンピオンの座に輝いた。
先勝はスペインだった。今大会まだ1セットも落としていないロベルト・バウティスタ アグートが世界ランク9位の力を見せつけ、34位のドゥサン・ラヨビッチに7-5 6-1で快勝。ナダルとジョコビッチとの頂上対決を迎えた。テニス史上最多の対戦回数を数えるライバル同士。ジョコビッチが28勝、ナダルが26勝と勝敗はほぼ五分だが、ハードコートではジョコビッチが現在8連勝中で、その間セットも与えていない。
その自信がにじみ出るような第1セットだった。前日に若いダニール・メドベージェフに追い詰められてラケットを叩き壊した“ヒール”の側面はもうどこにもない。ナダルの意図を読み、裏をかくショットでポイントを重ね、6-2でセットを奪った。第2セットは一進一退。スピード、パワー、テクニックのみならず、両者が見せる1ポイントへの執念に、彼らが世界ナンバーワンを奪い合う理由、グランドスラム・タイトルを分け合う理由が明確にある。タイブレークも互いに譲らない展開の中、4-4のナダルのサービスポイント、ジョコビッチが我慢のラリーの末にバックハンドのダウンザラインへ渾身のウィナー。低い雄叫びを響かせ、一気に勝利をたぐり寄せた。
勝負をタイに戻したジョコビッチは、最後の重責を自ら背負ってビクトル・トロイツキとのペアで再びコートに登場。スペインはナダルを使わず、ダブルス巧者の38歳フェリシアーノ・ロペスとパブロ・カレーニョブスタのペアで臨んだ。逆転で第1セットを奪ったセルビアは、第2セット最初のゲームをブレーク。そのリードを守り続け、サービング・フォー・ザ・チャンピオンシップはジョコビッチのサービスだ。40-0からカレーニョブスタのリターンがネットにかかった瞬間、チーム全員がコートになだれ込んできた。
「この経験は一生忘れない。この15年、幸い僕はすばらしいキャリアを送ることができたけれど、チームのため、国のために、最高の友人たちとともに戦うということは格別だ」
オーストラリアに多く暮らすセルビア系の人々がホームのような雰囲気を作った会場で、16回のグランドスラム優勝を誇る国民的英雄は、トロイツキとともに国旗をまとってインタビューに答えた。
そして〈格別〉の意味を補足するように、格上相手に貴重な勝ち星を挙げてきたナンバー2のラヨビッチを称えた。
「この勝利はドゥサンのおかげだよ。今大会を通して、彼のレベルはどんどん上がっていった。友人として、彼の成長を長年見てきた人間の一人として、こういう姿を見れたことは本当にうれしい」
10日間で延べ22万人の観客を動員した『ATPカップ』。初開催だけに、苛酷なスケジュールなど改善するべき点はあるものの、確実にトップ同士の対決を堪能でき、下位選手の成長を目の当たりにし、何よりチーム戦の興奮を存分に味わえる、刺激に満ちた大会だったことは間違いない。テニスには、まだ新たな可能性がある。
文/山口奈緒美