ネット・スマホは悪なのか?香川県の条例案に批判殺到、根拠のデータ解釈に誤りも?
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 香川県議会に素案が提示された「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例案」をめぐって論争が起きている。

 この条例案は「ネットやゲームの過剰使用は、学力や体力の低下のみならず、睡眠障害や引きこもりなどを引き起こすと指摘され、国内外で大きな社会問題となっている」との問題意識のもと、「18歳未満の子どもたちが健全に成長すること」を目的に、ゲーム・インターネットの利用を制限するというもの。具体的には、「ネット・ゲーム依存症につながるようなスマートフォン等の使用に当たっては、1日当たりの使用時間が60分まで、学校等の休業日にあっては90分までの時間を上限とする」などの基準が設定されている。

 しかし、大山一郎議長による「スマートフォンは完全にインターネットと同じ機能」「最近の親は長時間労働なので子どもがゲームに依存する」「eスポーツを推奨する議員たちは間違っている」「将来的に国に法整備を求める上で、(条例に)時間制限を設ける必要性を感じている」「県の学習状況調査などを参考に適切な使用時間を決めた」などの過去の発言も相まって、ネット上には条例案の根拠や実効性を疑問視する声が殺到している。

■国との方針とのズレも

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 自身のブログで「ネットやゲームをやる時間を制限することが、ゲーム障害に対する効果的な措置となるという科学的な根拠はなく、主観的な議論となってしまっている」「すでにネットは我々の生活に必要不可欠な存在になっており、ゲーム以外でもネットを利用せざるを得ない状況にある事が多くある」などの見解を示し、今回の条例案に異議を唱えている藤末健三参議院議員もその一人だ。

 AbemaTV『AbemaPrimeに出演した藤末氏は「学生時代に『ゼルダの伝説』にハマって卒業が危なくなったこともある。人生はゼルダじゃないかと思っていたくらいだ(笑)。ゲームやスマホは悪いものだという定義から議論が始まっているが、やはりきちんとした科学的根拠を見つけた上で、具体的にこうすれば効果がある、というものでなければならないと思う。そもそも議論にどういう人が参加し、どういう議論がなされたかも公開されていないし、今のまま条例案ができてしまうのは手続き的にも問題ではないか」と疑問を投げかける。

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 「ゲーム依存対策は必要だと思うが、今回の案はやりすぎだ。香川県教育委員会が作った“さぬきっ子の約束”という冊子では、“家族とルールを決めましょう”“自分も他人も傷つけないようにしましょう”“夜9時までには使うのは止めましょう”と呼びかけている。規制よりも、まずは家庭で話し合って進めるのが先だし、科学的な根拠が見つかれば、それに基づいてやっていくのがいいと思う」。

 さらに藤末氏は「動画も入れられる電子教科書を導入している地域では成績が上がっているというデータもある。だから学校教育情報化推進法ではスマホやタブレットで教材を使えるようにしましょうとしているし、学校で1人1台パソコンを使える環境を作ろうとしている。また、“eスポーツを推進する議員たちは間違っている”という意見もあるが、政府が決めた『未来投資戦略2018』でもeスポーツ推進を謳っている」とし、国との方針のズレについても指摘した。


■「データの分析が間違っている」

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 子どものスマホ利用などについて研究している田代光輝・慶應義塾大学特任准教授は「子どもの“ゲーム依存”についてはWHOも病気として認定しているし、確かに1日10時間もやっているような子に対しては、大人が対策を講じなければならない。しかし“スマホ依存”“ネット依存”は病気と認定されているわけではないし、スマホ使用を1時間に制限したからといって治るわけではない。また、高校生の2割くらいが“アプリで勉強したことがある”、4割くらいが“動画で勉強したことがある”と答えてもいる。香川県の問題意識には賛成だが、枝葉の部分ではおかしな話になっている。いったい誰が知恵を付けたのか、誰が間違えたのか」と首を傾げる。

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 その一例として、田代氏は香川県が作成したスマホ利用時間と学力テストの正答率の相関を示したグラフについて「疑似相関だ」と指摘する。

 「私も香川県と同じような調査をしているので、確かに似たようなグラフはできる。しかし、これは無相関だ。逆に利用時間と自由時間は相関がある。つまり勉強時間が長い人=成績が良い人は暇な時間が短いので、必然的にスマートフォンの使用も短くなるという話だ。因果関係を取り違えた疑似相関でこの結論が出ているので、このデータを分析した人のやり方が間違っているということだ。学生が同じように“スマホが学力に影響する”というようなレポートを書いてきたら、私は単位をやらない」。

■それでも高齢者層には受けがいい?

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 東京・秋葉原では、「(ゲームを)3、4時間やっても勉強する子はするし、1、2時間でもしない子はしない(20代・男性)」「制限する必要は全くないと思う。ゲームで覚えることもいっぱいある(30代・男性)」といった意見が聞かれた。

 紗倉まな氏は「『太鼓の達人』でリズム感覚、『おいでよどうぶつの森』で経済感覚を養った。息抜きという意味もあるだろうし、学校に居場所がない人にとってはゲームが自分の居場所になる人もいる。これからの時代、ネットやスマホは絶対に付き合っていかなければいけないものなので、ネットリテラシーを高めるための授業を行うなどの方向にもっていけばいいのにと思う」、 ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「私は幼稚園から小学生まで1日5時間やっていたし、ドラクエなどのRPGからゲーム理論や宗教を学んだ。もちろん危険なことからは守られるべきだが、ちょっと痛い思いをして分別が付くということもあると思う。ネットを制限した結果、ネットリテラシーの低い人が大量生産されたら嫌だし、タイピングができない新入社員では使い物にならないという話も聞く。そして、インターネットは地方でこそ有意義なものだと思う」とコメント。

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 作家の乙武洋匡氏は「ゲーム依存を何とかしなければならないという問題意識なのに、インターネットそのものやスマホの使用を制限するということで、ぼんやりしてしまっている。条例を作ろうとしている人たちがそのあたりの違いについて分かっているのかという不安すら抱いてしまう。なぜスマホに関わる時間が長くなっているのかといえば、ゲームもできるし調べものをすることもできるという具合に、デバイスで色々なことができるようになっているからだ。ただ、この番組の視聴者の方々は大山議長のおっしゃっていることに“は?”となっても、議長と同世代の方々には“そうだそうだ”と思う人も多いと思う。そして実際に選挙に行くのはこの世代の方々なので、こういう意見が通ってしまやすい。ちゃんと投票に行って意思表示しないといけない」と問題提起した。

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 一方、“ハグ屋”でエロ漫画家のピクピクン氏は「確かに視聴者の方々や若い方々は今回の条例案に反対だと思う。僕も『ストリートファイター2』で全国大会に行くくらいゲームで育ってきたし、オタクだし、漫画家だ。それでも人って常に娯楽を求めるし、結構弱い。僕もゲームがあることで仕事ができなくなったことがある。その時は、窓からプレステを投げ捨て壊し、ゲーム自体を遮断した。子どもたちはもっと弱いと思う。線引きができていないことが問題であって、例えば6時間以上スマホを触ったらロックがかかるというようなものであれば賛成できる」との考えを示した。

■家庭でのルール、どうすれば?

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 ネット上には「親からすると、公で決めてくれた方がありがたい。うちの子だけさせないのは友だち付き合いで難しい」「時代に合ったルールを家庭でつくるしかない」といった声もある。

 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「学生時代に徹夜で三国志のゲームをやったおかげで内政・外交・軍事など様々なものを学んだ。今の仕事にも活きている。ただ、クリアしたら覚めたから良かったと思う。今は子どもがタブレットを使いたがるが、私の指紋認証にしていて1日15分、30分と決めている。また、昔はテレビの見過ぎが問題になったが、スマホは能動的な分、より没頭してしまうのかもしれない」と話す。

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 乙武氏は「子どもたちが能動的に勉強に取り組めるよう、ゲームと勉強をミックスさせていく方向を考えてもいいのではないか。ゲームをしながら自然と知識が身に付いたりすれば、そこまで目の敵にする必要もなくなってくると思う。私が小学生の時には面白いルールがあった。1日にテレビを見た時間とゲームをした時間の合計時間と、勉強した時間と本を読んだ時間の合計時間が同じでなければいけないというものだった。僕はゲームもしたいしテレビも見たいから、一生懸命勉強したし本を読んだ。母にうまく扱われたなと思う」と振り返った。

 田代氏は「子どもたちが守るルールというのは、親から押し付けられたルールではなく、親子で話し合ったルールだという傾向がある。また、目標となる人がそばにいれば、人は変わる。これはアメリカの人種差別やジェンダーに関する研究でも分かっている。だから学校のOBなどに見本になる人がいれば、“あの人はこうだったよ”と教えてあげると真似をする。さらに言えば、何か具体的な夢や目標がある人は、そのために時間を使うので、余った時間が少なくなる。それは勉強に限らず、スポーツでもそうだ。私の知り合いに、成績は良くなかったが自動車が大好きな人がいて、後に自動車整備の会社を立ち上げて大金持ちになった。だから何か夢中になれることを見つけてあげる、ということも方法の一つだ」と話していた。

 条例案は2月に県議会に提出され、4月の施行を目指している。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:子どものスマホ規制条例に根拠なし??

子どものスマホ規制条例に根拠なし??
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