中国・武漢で発生したとみられる「新型コロナウイルス」による肺炎について、安倍総理は「指定感染症」にする方針を表明した。28日に閣議決定する方針だ。
感染症法に基づく「指定感染症」になれば、患者の強制入院や就業制限、濃厚接触者の調査など厳重な法的措置が可能になり、医療費を公費で負担できるようになる。2003年に中国で流行した「SARS(重症急性呼吸器症候群)」なども指定されている。
また、安倍総理は武漢市からの日本人の退避について「希望者全員を速やかに帰国させる」と改めて表明した。政府関係者によると、武漢への直行便がある全日空(ANA)を軸に調整が進んでおり、早ければ28日にも実施するということだ。
武漢から帰国する日本人全員について、厚生労働省は2週間の経過観察をする方針を明らかにした。まず、帰国する機内で全員に健康カードを配布し、咳や発熱などの症状があれば医療機関での受診を促す。機内で発症する人が出た場合に備えては、厚労省の職員をチャーター便に乗せることも検討。ウイルスの潜伏期間は10日ほどとされることから、帰国後2週間は1日2回の体温を測ってもらい、発熱などがあった場合は最寄りの保健所に報告するよう求めることを検討している。
そうした中、今後深刻化が懸念される心理社会的影響について、関西福祉大学の勝田吉彰教授はSARS流行時に起きた“5つのP”を指摘する。
(1)SARS Phobia:公式情報と噂のかい離から不安・恐怖拡大(3月20日頃~)
(2)SARS Panic:公式発表数字が跳ね上がり雰囲気一変、恐慌状態(4月20日頃~)
(3)SARS Paranoia:事実ではない噂・風説・信念がひとり歩きし、訂正不能(4月下旬~)
(4)SARS Politics:援助や調査研究で来訪者が増え、政治的な動きも(5月中旬~)
(5)SARS PTSD:患者・周辺・一時帰国者のトラウマ体験が語られる(6月~)
今回の新型肺炎は、3つ目の「SARS Paranoia」の段階に来ていると勝田氏。すでにこれまで、中国語で「関西空港から感染の疑いのある中国人が逃げた」というデマが広がり、大阪府や関西国際空港が悪質なデマに注意するよう呼びかけている。
なぜデマが広がってしまうのか。臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学准教授の藤井靖氏によれば、デマが広がりやすい“3要件”があるという。
「1つ目は、自分たちにとって重要な情報・事柄が対象であるとき。2つ目は、先行きが不透明な状況であること。実際に新型コロナウイルスもこの先どう展開していくかが誰にも見えていない。3つ目は、不安が高まりやすい事柄や状況であること。特に3つ目の不安は、私たちの身の安全や命にも関わりうるだけに、人の心を動かすひとつの大きな感情になる」
では、デマに振り回されないためにはどうしたらいいのか。藤井氏は「一人の見解や一つのメディアの発信に惑わされ過ぎずに、複数のソースを確認するなど、情報を多面的に見ること」がまず重要とした上で、「新型コロナウイルスに感染したらどうしよう、という不安が広がっている。安心できる結論が得られない状況での不安は雪だるま式に大きくなることが多いので、逆に、仮にかかってしまったらどう対応すべきか、どこに治療機関があるかなどのリソースを確認しておくことが、ひとつの安心材料になると思う。実際過去の調査でも、中国でパンデミックが発生した際に専用の心理相談窓口が設置され、市民の恐怖心の緩和やパニックの防止に役立ったという指摘がある」と説明。さらに、「人間の根本心理として、“不安な時はその不安を肯定する情報に出会うことによって逆に安心する”、つまり今回のようにパニックになったときには、自らが不安なことを探している、ということがある。そういう心理があることも自覚しておくべき」とも促した。
SARSが流行した2003年当時に比べ、TwitterやFacebookなどのSNSが発達した今は情報にどう向き合うべきなのか。藤井氏は「現状、患者数などはある程度の公式発表が出てきているが、潜伏期間がどれくらいか、感染力は過去の感染症と比べてどれくらい強いのか、治療法が有効かどうかなど、病態については医療関係者や専門家を含めても完全には分かっていない。つまり、情報が流通するプラットフォームがいくら発達しようとも、未知の状況下では正しい理解や情報が不明であるという状況は無くならないということだ。正しい情報を得ようとアンテナを張り巡らせつつも、“誰も分からないという状況、曖昧さ”に我々は耐えていかなければといけない」とした。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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